鮎川哲也編『鯉沼家の悲劇』光文社文庫 1998年

 「本格推理マガジン 幻の名作」の第2弾です。前作『硝子の家』が『このミス'98』で第17位にランクインしたことで,編集部はかなり気をよくしているようです(笑)。

宮野叢子「鯉沼家の悲劇」
 5年ぶりに鯉沼家を訪れた“僕”を待っていたのは,謎の連続怪死事件だった。因襲と愛憎が渦巻く旧家には,いったいどのような謎が秘められているのか…
 横溝正史の戦後初期作品『獄門島』『犬神家の一族』などは,敗戦直後における封建的大家族の崩壊をミステリという形で描き出している,という評言を読んだことがありますが,1949年初出の本作品も同じようなテイストを持った作品です(もっとも二階堂黎人の解題によれば,『犬神家』よりもこちらの方が先行するそうです)。文体もまた,少々まどろっこしいくらいに大仰で,おどろおどろしい雰囲気をうまく醸しだしています。そういった点ではなかなか楽しめるのですが,後半,ぽっと出の登場人物が,するすると事件を解決してしまうのは,それまでの雰囲気を壊してしまっている感が強く,味気ないものがあります(う〜む,二階堂黎人の解題と変わらんじゃないか,こんな感想)。
横溝正史ほか『病院横町の首縊りの家』
 小説のネタを探しに金田一耕介のもとを訪れた“私”に,彼は1枚の結婚写真を見せ,「この写真が撮影された晩,その女はすでに死んでいたはずなんです」という…
 作者急病のため,連載が頓挫してしまった横溝正史の「序編」をもとに,『宝石』編集部が,岡田鯱彦と岡村雄輔に「それぞれの続編」を書かせたという異色作です。ですから,発端は同じでも,まったく異なる2種類のストーリィが存在しています。「序編」そのものが短く,のちのちの展開を拘束するほど伏線を引いていなかったからこそできた趣向なのでしょう。個人的には岡田鯱彦の展開の方が好きですね。トリックとしてもおもしろいと思います。また岡村雄輔の方で,中村梅女が「花嫁」に呼びかけた名前が無視されてしまっているのが気にかかってしまいました。
狩久「見えない足跡」
 高山画伯の死体は,密室状態のアトリエで発見された…
 ユーモアのある,テンポよい文章で,サクサク読んでいけます(「犯人は狩久だ。いや,ちがう」というセリフには笑ってしまいました)。ただトリックは途中でわかってしまいました。もっとも,書き方を見ると,「わかってもいいや」という印象がなきにしもあらず,ですが(笑)。
狩久「共犯者」
 別れた恋人・栗原の家を訪れたまゆりは,そこで彼の死体を発見する。が,部屋は完全に密閉されており…
 たしかに密室の謎解きとしては,それなりに合理的なのではありますが,なんとなく腑に落ちないのであります。なんでわざわざ××までも変えなきゃいけなかったのでしょうか?

98/04/02読了

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