鮎川哲也編『硝子の家』光文社文庫 1997年

 鮎川哲也編集の『本格推理マガジン』シリーズの番外編(?)なのでしょうか。いままで「名作」の呼び声高いにも関わらず,単行本化されることのなかった「幻の名作」(とされる)3編と,最近の新本格ものの興隆でときどき言及される,「ヴァン・ダインの探偵小説作法二十則」,「ノックスの探偵小説十戒」,さらに山前譲の「必読本格推理三十編」を「第二部“本格の鉄則”」というタイトルで,掲載しています。いつから推理小説を読むのに「必読」やら「鉄則」やらが,必要になったんでしょうかね? 編集部が「はしがき」に「明日の作家をめざす人には,まさにバイブルとなる1冊なのです」と書いてますように,きっと「明日の作家をめざさない人」は関係ないんでしょうね(笑)。

島久平「硝子の家」
 伝法探偵のもとに,これから完全犯罪をおこなうという青年が来訪。彼に付いて愛知県知多半島の「硝子の家」を訪れる探偵。そして予告通り(?)発生する密室殺人。つづいて容疑者全員が警察監視下にある「逆密室」の状況で,第二,第三の殺人が…
 はたして犯人はどのようにして不可能犯罪を可能にしたか? なんともオーソドックスな本格推理です。もちろんつまらないという意味ではありません。伏線も周到に張り巡らされており,フェアな展開だと思います。ただミステリ読みの方々の中には,第一,第三の殺人のトリックはおよそ見当がつくのではないかと思います。個人的には第二のトリックが,シンプルでありながら,盲点をついていて,一番おもしろかったです。また導入部で,完全犯罪を宣言する登場人物など,大時代的ではありますが,魅力的でひきこまれます。ただ途中で描かれる伝法探偵の「密室からの消失」は,あまり意味がなかったのではないかと思いました。ところで大阪が舞台なのに,なんで大阪弁がぜんぜん出てこないのかなあ。やっぱり大阪弁が広まるのは吉本興業がテレビによく出るようになってからなのだろうか?
山沢春雄「離れた家」
 金融業の男が殺された。最重要容疑者は被害者の甥。しかし彼には鉄壁のアリバイがあった。迷宮入りがささやかれる中,あるホテルが火災があり,死亡した男の持ち物から一冊のノートが発見される。そのノートを手がかりとして,同日同時刻におきた人間消失と殺人事件とが結びつけられ…
 解題で芦辺拓がいうように,「ここまでやるか」というのが感想です(彼は「本格推理小説は『ここまでやる』ものなのです」といってますが・・)。正直言って,トリック解明の部分には退屈してしまいました。たしかに本作品のように精緻で凝りに凝ったトリックを使えば,こういった犯罪は(少なくともフィクションの上では)可能かもしれません。しかし,「なぜこんなことするの?」という疑問は払拭できず,結局,作者の自己満足の世界に自己完結してしまっているような気がしてなりません。
天城一「鬼面の犯罪」
 ガラス工場社長が殺される。その若妻は,その直前,鬼が夫に白刃をたてるのを目撃。殺害現場の部屋に飾られた鬼面には,古い因縁話が伝わっていた…
 どうもこの作者の文章は,内容云々のまえに,ユーモアのつもりなのかもしれませんが,なにやら気取っていて,なじめないんですよね。内容的にも「ああ,そうですか」という感じで,いまいち楽しめませんでした。

97/03/30読了

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