はやみねかおる『少年名探偵 虹北恭助の新冒険』講談社ノベルス 2002年
はやみねかおる『少年名探偵 虹北恭助の新・新冒険』講談社ノベルス 2002年

 「魔法は,無いの」(「夜間飛行」より)

 『少年名探偵 虹北恭助の冒険』のラストで,アメリカに旅立った(金○一○助みたいですね(笑))虹北恭助が帰ってきました。といっても,帰ってくるのは盆と正月,ほとんどわたしの帰省と一緒です(<親不孝者!^^;;)
 『新冒険』に2編,『新・新冒険』に3編を収録しています。

「夜間飛行」
 小学生の女の子が,学校の屋上から墜落した。事故? 自殺未遂? それとも…
 恭助による「女の子墜落事件」の謎解きと,若旦那ご一行によるゲリラ的映画作成・上映のエピソードとの接続が,ちょっと「竹に木を接いだような」といった感じでしたが,ところがぎっちょん!(<死語) いや,やられました。「おちゃらけ」と思われるところに,上手に伏線を埋め込んで,ふたつのエピソードを思わぬ形で結びつけています。恭助の視線と読者の視線とが巧みに一致させているところもフェアでいいですね。
「外伝の一 おれたちビッグなエンターテインメント」
 “わたし”の名は若旦那。一介の映画監督だ。大衆の無理解にも負けず,今日も映画作りに燃える…
 『冒険』の「祈願成就」で登場して以来,作者の寵愛を受け(笑),ついに本作品では主役をはってしまった若旦那であります。ミステリ的謎はあるものの,やや薄味。どちらかというと「キャラもの」というテイストですが,例によって,マニアックでレトロな小ネタがところどころに顔を出し,おじさんを喜ばせてくれます(「勝ち抜きエレキ合戦」とか「拳銃は最後の武器だ」とか,そして相変わらずの「あのネタ」−「ああ,選ばれし者の恍惚と不安…」などなど) トリックにはちと疑問も残ります。以下,ネタばれ。反転します。映画『妖』の「呪い」の正体は「超低周波音」になっています。しかしこれが成り立つには,超低周波音が「録音」され,さらに「再生」される必要があるわけですが,これって機材的に可能なのでしょうか?
「春色幻想」
 意外なカップルが結婚する夢を見た響子ちゃん。帰国した恭助にそのことを話すが…
 うわぁ,響子ちゃんも,もう中学3年生ですか…恭助がたまにしか帰ってこない,という設定だからなんでしょうが,月日の流れの速いこと(笑) いわゆる「日常の謎」系の作品ですが,日頃,わたしたちが「見慣れたもの」を上手に取り込むことで,恭助の推理の自然さを産み出しています。ところで作中に出てくる「ルビンの壺」,カットを入れた方がわかりやすいのでは? 著作権がらみ?
「殺鯉事件」
 若旦那たちの映画(?)撮影中,殺人事件ならぬ“殺鯉事件”が発生し…
 「表面」の謎解きで十分に幕引きできるところを,本格ミステリのフォーマットをしっかりと踏襲しつつ,二重三重のツイストを仕掛けるところから,この作者が,ジュヴナイル・ミステリをとても誠実に書いている,ということがよくわかります。こういった手を抜かない作品づくりが,「小さなミステリ・ファン」を作っていくのでしょうね。それと「女心は,さすがの名探偵も推理できない」というところも「ミソ」なのかな?(笑)
「聖降誕祭」
 クリスマス・イヴの夜,病院に“ウサンタ”が現れた…
 欧米では「クリスマス・ミステリ」というのが,一種の「定番」になっているようですが,ほんわかしたテイストは,そんな感じのエピソードとなっています。唯一の書き下ろしとのことで,本集の刊行時期に合わせたのではないでしょうか? 「雪の上の足跡」というシチュエーションは古典的ですし,またそのハウダニットも先例があると思いますが,ホワイダニットの設定のユニークさが,本編の魅力となっていますね。それにしても,こういったモチーフが取り上げられるのも,『リアル』(井上雄彦)のヒットのせいでしょうかね?

02/12/01読了

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