はやみねかおる『少年名探偵 虹北恭助の冒険』講談社ノベルス 2000年

 「普通は,学校に行って成長していく。そう,それが普通だ。でも,世の中には,恭助君みたいに,学校を必要としない人間もいるんだ」(本書「祈願成就」より)

 「揺りかごから墓場まで」―なんでも揃った古い商店街・虹北商店街。その中でももっとも古い古書店「虹北堂」で,店番をしながらいつも本を読んでいる小学生六年生・虹北恭助。彼は周囲から「魔術師(マジシャン)」と呼ばれていた・・・

 「名探偵夢水清志郎事件ノート・シリーズ」で有名なこの作家さんの新作は,これまでの講談社ノベルスの背表紙を念頭に置いて探そうとすると,なかなか見つかりにくいカヴァ・デザインをしています(笑)。

 主人公虹北恭助は小学6年生。しかし日がな一日,古書店「虹北堂」で古本を読んでいます。いわゆる「不登校児童」なわけですが,作者は,そういった設定の主人公を暖かい視点で描き出していきます。その視点は,小学校の教員が本職であるこの作者の考え方を示すものなのかもしれません。
 さて本編は,そんな恭助が,虹北商店街で起こる「怪事件」を,まさに快刀乱麻に解いていくという体裁の連作短編集でありますが,初登場のエピソード「虹北ミステリ商店街」の謎解きは,ちょっと首を傾げてしまいました。昔懐かしの「駄菓子屋」に,つぎつぎと見覚えのない商品が置いていかれるという謎を扱っていますが,恭助によって明かされる「真相」に,「もしかしてこの連作は,ファンタジィ色を色濃くにじませた作品なんだろうか?」などと思ってしまいました。
 ですから,ちょっと腰が引けたのですが,2編目以降は,そういったテイストを払拭しており,一安心といったところです。第2編「心霊写真」は,クラスの女の子が見て悲鳴をあげた写真には,奇怪な男の顔が写っており・・・という,タイトル通り,「心霊写真」の謎に 恭助が挑みます。小粒ながら,着眼点がよく,ささいな行動や描写から,するすると“事件”の背景を読み解いていくところは小気味よいですね。ラストの「除霊」トリックも伏線が光ります。本集中,一番楽しめました。
 「透明人間」は,酔っぱらいが夜中に商店街で目撃した“透明人間”と,翌朝発見された無数の足跡,季節はずれの飾りものの謎が提示されます。“透明人間”の謎解きは,シンプルでありながら,錯覚を巧みに用いていて,「ほほう」と思わされました。ただ飾りものの謎は「諸刃の刃」の部分があるのではないでしょうか? 隠すつもりが逆に注目されてしまう危険性もかなりあるでしょうから。それにしても「迷走するメヌエット賞」には笑ってしまいました。でも,『すべてがトウフになる』『コミック』はわかりましたが,『数の子広告(ビラ)』ってなんでしょうか?
 商店街のプロモーション・ヴィデオの製作を依頼された恭助と響子が,願い事がなんでもかなうという「お願いビル」の謎に挑戦するのが,第4編「祈願成就」です。このエピソード,メインの謎解きそのものよりも,むしろ作中に挿入された「お遊び」的な映画「名探偵はつらいよ in 虹北大決戦」の印象が強いですね(作者も,これが書きたかった,と書いてますし)。もしかするとこの作者,「バカミス」を書いてみたいんじゃいないでしょうか? ですが,ひとつの作品としては,ちょっと焦点が絞り切れていない散漫な感じがしてしまいましたね。
 ファイナル・エピソード「卒業記念」の謎は,下級生が校庭で目撃した「鬼」です。比較的「ほのぼの系」の強い連作の中で,ややビターなテイストを持った内容になっています。これもまた,作者の教員としての「顔」が色濃く出ている作品といえるかもしれませんが,恭助の旅立ちと,それを見送る響子の複雑な気持ちと重なりあっているようにも思えます。「背伸び」のダブル・ミーニングは,ついにやけてしまいますね(笑)。ところで「『虹北前史』第一巻序説第三章より,抜粋」って,『ビューティフル・ドリーマー』ネタですね。けっこうマニアック(笑)

00/08/22読了

go back to "Novel's Room"