はやみねかおる『そして五人がいなくなる』講談社青い鳥文庫 1994年

「いまの子どもと昔の子どもと,どっちが幸せだと思う?」
 わたしがきくと,教授はあっさり答えた。
「どっちも幸せだよ。子どもは,いつの時代だって幸せなんだ。また,幸せでなくちゃいけないんだ。」
(本書より)

 巨大遊園地“オムラ・アミューズメントパーク”,衆人環視の手品の舞台から少女が消えた! そして“伯爵”と名のる怪人物からの犯行声明,さらに伯爵はあと4人を消すと宣言。警察に厳重にガードされた少年少女たちが,彼らの目の前でつぎつぎと消えていく! いったいどんなトリックが? そして伯爵の意図は? 名探偵・夢水清志郎が不可能犯罪に挑む!

 この作者の作品は,ウェッブ上でしばしば見かけ,前々から読みたかったのですが,いくら書店を回っても「講談社青い鳥文庫」が置いていない。「うぅ,田舎はいやじゃ!」と思っていたところ,先日,某さんのチャットで,「講談社青い文庫」は児童書コーナーに置いてあること,「文庫」というタイトルだけどサイズは新書版だということを,教えていただきました。
 が〜ん!
 これまで「コバルト文庫」「角川スニーカー文庫」「講談社X文庫」といった文庫と並んでいるものとしっかり思い込んでいて,書店でもそういった棚ばかり探していたのですから,ないはずです(笑)。というわけで「新鮮な眼」で書店で探したところ,本書を発見,購入ました(でも,はやみね作品はこの1冊だけでした。やっぱり田舎・・・・(T_T)。おまけに某さんからは「バ○な間違い」と言われるし・・・・(しくしく)。某さん,けっして怒ってなんかいませんからねぇ・・・(ーー##)<じゃぁ,これなに?(笑))。

 さて,とにかく楽しい作品です。主人公である夢水清志郎と,“語り手”である岩崎姉妹,上越警部などなど,彼らの動きやセリフは,いずれもテンポよく,サクサクと読んでいけます。「マンガチック」という言葉は,どこかネガティブな印象がありますし,またわたしもあまり好きな表現ではありませんが,この作品は,むしろマンガの持つ軽快感をじつに巧みに取り入れているように思います。ですからキャラクタたちの「変なところ」(とくに清志郎!)が,デフォルメされながらも,けっして鼻につきません。彼のオーバーアクションに思わず「くすり」と笑ってしまいます。
 それとなんといってもいいのがハッピーエンディング。「ユーモアミステリ」というジャンルがあるとはいえ,ミステリというのは,やはり殺人を扱うことが多く,そういった意味では,読んでいてどうしてもギスギスしてしまうことがあるので,こういったテイストのミステリを読むと,ふっと肩の力が抜け,ほのぼのしますね(途中,「蝋人形館の惨劇」という章のタイトルがあって,全編,明るいタッチでありながら,「惨劇」が出てきたらイヤだな,と少々不安だったんですが,その「真相」には笑ってしまいました)。
 ミステリとしても,不可能な状況での人間消失をじつに5つも登場させるなど,ケレン味たっぷりで楽しめます。個々のトリックそのものはどこかで見かけたようなところもありますが,アミューズメント・パークという舞台を効果的に用いていて,手垢の付いた感じがあまりしませんでしたね。とくに最初の空中に浮く箱からの人間消失は,それこそ「手垢の付いた」トリックをもうひとひねりしていて,楽しめました(作中,「そんなまねは,昔の子ども向け探偵小説に出てくる怪人のすることですよ」なんてセリフが出てきますが,ここらへんに作者の自負が感じられますね)。

 それにしても岩崎姉妹は中学1年生,そのお母さんが35歳。そうだよなぁ,中1の母親が35歳でもけっして不自然じゃないんだよなぁ。我が身を振り返り,けっこうショックでした(笑)。

98/07/06読了

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