田中文雄ほか『奇妙劇場 vol.2』太田出版社 1991年

 先日読んだ『奇妙劇場 vol.1』を買った古本屋さんとは,別の古本屋さんで見つけました。すでに品切れになっていて,けっして発行部数が多いとは思えない(失礼!)本シリーズの2巻目を,別の古本屋さんで出会うとは,なんだか不思議な感じがします。そのうち「vol.3」にも遭遇するかもしれません。
 本巻には「ロング・バケーション」というサブ・タイトルがついており,いずれも「休暇」をモチーフとした8編が収録されています。気に入った作品についてコメントします。

大原まり子「真夏の夜の会議」
 知り合いの口車に乗せられ,田舎の別荘を買った白川真琴。ある晩,“寄合”に呼ばれた彼は…
 俗に「化けの皮を剥ぐ」という言葉があります。表面的な「皮」に隠された本性が見える,という意味ですが,この作品で,主人公はもののけの「化けの皮を剥いだ」つもりになっていながら,じつは虚飾に満ちた自分の「化けの皮」が剥がされたことに気づいていないように思います。そこにこそ,本作品の「真の怖さ」があるのではないでしょうか。
新戸雅章「あじすこてっか」
 休暇で妻の実家に遊びに行ったフリーライタの重夫は,そこで奇妙な言葉遣いを耳にし…
 オチは,なんだかダジャレみたいでいまひとつでしたが,「あじすこてっか」という呪いの言葉をめぐる寒村での対立が妙に生々しくて迫力がありました。鹿児島でも離島部では,かなり壮絶な選挙戦があるそうですから…
田中文雄「ムーンビーチの蟹」
 昭和35年,返還前の沖縄へ行った星田たちは,そこで不思議な青年と出会う…
 あまりに,あまりにオーソドックスな怪談かと思いきや,ラストでのツイスト,というか,怪談なのか,ミステリなのか,あいまいなままでの幕引きが,奇妙な,それでいてほのぼのとした味わいを醸し出しています。本集中,一番楽しめました。
岡崎弘明「帰省ラッシュ」
 鹿児島から東京へ夜行急行で帰る一家。いい加減うんざりしている彼らに,奇妙な車掌が近づき…
 「あの世行きの列車」という,使い回されたネタの作品ではありますが,「JR霊界」というネーミングが出てきたときに思わず吹き出してしまい,あとはひたすら苦笑しながら読み進めました。ラストの,「ちゃんちゃん」という合いの手が聞こえてきそうな,落語の「下げ」を思わせるような幕引きもいいですね。ちなみにわたしは,鹿児島から東京行きの夜行急行など,毛頭乗る気になりません(笑)。

00/12/19読了

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