横田順彌ほか『奇妙劇場 vol.1』太田出版 1991年

 古本屋で見つけ,「へぇ,こんなのあったんだぁ」と手に取ってみると,なかなかのライン・アップ。SF系の作家さんの作品11編を収録しています。
 「vol.1」とあるからには,続きがあるのだろうと,TRCで調べてみたら,「vol.3」まで出ているようですが,品切れもしく絶版のようです。
 気に入った作品についてコメントします。

大場惑「ニュースおじさん」
 ニュースに何度も顔を出す「ニュースおじさん」。どのようにして彼はニュースの現場を察知するのか?
 「ニュースおじさん」という発想と,そのネーミングが楽しいですね。その「おじさん」の奇妙さをしだいしだいに浮かび上がらせ,ぐうっと緊迫感を高めておいてのツイストは,思わず笑っちゃいました。
中井紀夫「おとうさんの集会」
 真夜中にこっそりと家を抜け出すおとうさん。後をつけた“ぼく”が見たものは…
 ほのぼのとしていて,ちょっぴり哀しいお話。偏見かもしれませんが,日本のお父さんというと,どちらかという「犬」のイメージの方が強いですが,そこに「猫」を結びつけた着眼がユニークですね。父親と息子との心の交流の描き方も巧いです。
高井信「世にも奇遇な物語」
 一週間前に結婚し,新しいマンションに移った水野武。その隣室に住む男は,彼と同姓同名だっただけでなく…
 「不気味」とか「恐怖」とかいった明確な感情よりも,むしろ「いやあな感じ」が漂う作品ですが,そこに,どこかとぼけたようなユーモアも混じっていて楽しめます。年齢だけをずらしているところが,その「奇遇さ」により一層の不可思議さをくわえています。落とし所はちと平凡ですが。
草上仁「顔」
 「免許証の写真とちょっと違ってますね」・・・警察官の一言から迫田は異様なことに気づき…
 自分自身が認識している「自分」と,他人が認識する社会的な「自分」との間には,どうしようもなく齟齬が生ずるものなのでしょう。その齟齬が大きくなりすぎると,人はしばしば強いストレスを受けます。ホラー作品で,このモチーフが繰り返し採用されるのは,その齟齬が,人間にとってきわめて根元的な「恐怖」と結びついているからかもしれません。
川又千秋「合わせ鏡」
 フリーライター同士の夫婦は,しだいに心の溝を深め,ついに離婚することとなり…
 真夜中に合わせ鏡の間を悪魔が通る,という伝説を,オーソドックスにホラーへと発展させるか,あるいは,悪魔ネタのジョークへと展開させるか,といったところが「定番」といえば「定番」ですが,それをSF的にもうひとひねりして,ユニークな着地を見せてくれます。

00/11/11読了

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