はやみねかおる『消える総生島』講談社青い鳥文庫 1995年

 ミステリ映画のイメージ・ガールに選ばれた岩崎三姉妹は,その予告編の撮影のためスタッフとともに総生島に渡る。“教授”こと名探偵夢水清志郎も「怖ろしい事件が必ず起こる」とでまかせを言って強引に一行に加わる。ところが教授のでまかせ予言が的中? 島に渡ったクルーザーが爆破され,電話線も切断。孤立した島で,人が消え,山が消え,そして島までが消えてしまった!

 さて「名探偵夢水清志郎事件ノート」の第3弾は,ミステリの定番「閉ざされた空間」です。でもって,その「閉ざされた空間」から,主演女優が姿を消し,島の真ん中にあるはずの山が一夜にして消え,ついには島そのものが消えてしまった,という派手派手しい事件が目白押し,それに加え,「読者への挑戦状」まで挿入された本格ミステリ特有のケレン味たっぷりの作品です。
 ところで『亡霊(ゴースト)は夜歩く』の感想文でも書きましたが,ミステリでは(とくに長篇の場合)大技+小技のコンビネーションの妙とでもいいましょうか,たとえメイン・トリックが見当ついても,小技の切れ味で,ミステリとしての味わいはずいぶん変わるんじゃないかと思います。この作品の場合,(ちょっとネタばれ気味ですが)つぎつぎと提示される謎は,ただひとつの大技で成り立っているため,途中でそのトリックが見当ついてしまうと,どうしてもミステリ作品としての魅力は減じてしまうことになってしまいます。
 ですから前作までに比べると,本作品,ちょっともの足りないな,という印象があったのですが,最後の最後で,「見当のついた大技」をさらに上回る「大技」(技の「質」はぜんぜん違いますが)が明らかにされ,驚かされます。またそれが,文中に挿入された,ちと浮いた感じのエピソードと効果的に結びついている点も,感心させられました。

 またこの作品の冒頭,岩崎三姉妹と教授がミステリ映画を見に行き,火災のため真相が明らかにならなかった映画の結末を,教授が推理するというエピソードが挿入されています。読んだときは,新しい読者向けの「教授の推理能力紹介」みたいな感じだったのですが,これまた本編の内容とリンクしていて,なかなか巧妙なお話づくりになっています(このことは『亡霊』にも共通することなのですが・・・)
 この作者,一筋縄ではいかないようです(笑)。

 なお本書には,あの「五十円玉二十枚の謎」ならぬ「五円玉九枚の謎」を夢水が解く「教授のお正月」が収録されています。

98/08/15読了

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