はやみねかおる『亡霊(ゴースト)は夜歩く』講談社青い鳥文庫 1994年

 岩崎三姉妹が通う中学校・虹北学園は,いま文化祭直前,その準備で盛り上がっている。ところが,学園に伝わる不気味な“四つの伝説”を思わせる不可解な事件が続発! 故障していた時計塔が時を告げ,校庭には魔法円が描かれる。そして亜衣のワープロに残された謎のメッセージ。事件の背後で跳梁する“亡霊(ゴースト)”とは何者なのか? ご存じ名探偵・夢水清志郎が謎に挑む!

 ようやく見つけた「名探偵夢水清志郎事件ノート」の2作目です。
 この一連のシリーズは,表紙カヴァ裏に「小学上級から」と書かれていますように,小学生高学年から中学生あたりを対象とした作品です。ですからここで描かれている世界は,多くの読者(つまり小中学生)にとってはリアルタイムな「日常」のことなのかもしれません。しかし,わたしのようなおじさん(笑)にとっては,この作品の世界は「過去」であり,「ノスタルジィ」に属することです。本書の舞台となっている文化祭直前の風景,それは「文化祭が一番楽しいのは文化祭準備期間である」ということを,改めて気づかせてくれます(押井守監督のアニメ『ビューティフル・ドリーマー』に通じるようなところがあります)。模擬店や出し物の準備のために,友人たちとわいわいやりながら,夜遅くまで学校に残って作業していた,一種独特の高揚感が思い出されます。
 おそらく作者の意図したこととは違うかもしれませんが,そんな風な楽しみ方もできるのではないでしょうか?

 さて物語は,冒頭に書いたような事件のほかに,星占い同好会会長・間直玲子による事件の予言や,魔法円の周辺置かれたパイプ製のハードル,その魔法円の中心にはるか上空から落下したようにめり込んだ椅子,衆人環視下で消失する“亡霊(ゴースト)”などなど,大小さまざまな謎が散りばめられています。で,それぞれに大技小技のトリックが隠されているわけですが,大技+小技,という組み合わせは,ミステリのひとつの常道ではありますね。この作者,そのあたりはきっちり押さえているようです。伏線が見え見えなのは,まぁ,このシリーズの場合,良しとしましょう。
 そして物語のメインの謎が“ホァイダニット”です。ことさらに大仰で,人々の注目を引くような事件を巻き起こす“亡霊(ゴースト)”の意図はなんなのか? そこらへん物理的なトリックと心理的なものを適度にまぜあわせていて,けっこう楽しめました。“亡霊(ゴースト)”という言い回しも,読み終えてみると,なかなか味わい深いものがあります(最近よく目にする「あの言葉」を用いなかったのは,話をあまり陰惨にしないための方策なのかもしれません)。

 それにしても,「視聴覚教室に行けば,パソコンだってある」とか,後夜祭でディスコ・ミュージックやチーク・ダンスなどなど,時代は変わったんやなぁ・・・(°°)。

98/08/14読了

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