椎名誠『活字のサーカス―面白本大追跡―』岩波新書 1987年

 先日読んだ『活字博物誌』の前に出た,「書評風エッセイ(エッセイ風書評?)」を集めた1冊です。本書は,古本屋で買ったのですが,10年以上も前に出てたんですね。本屋さんを探してもなかなか見つからないはずだ・・・
 おもしろかったエピソード(書評?)についてコメントします。

「カバンの底の黄金本」
 旅先に持っていく本のセレクションについて書いた一節。出張も含め旅先というのは,忙しいようでいて,往復の列車や飛行機の中,(飲み会のないときの)ホテルの夜など,本を読む時間は,普段よりずうっと多いんですよね。ですから,その時間になにを読むのか,という選択は,難しくもまた楽しいものです。ましてや日本語の本が手に入らない海外へ長期出張する場合は,ますます難しいですね。せっかく持っていった本がつまらなかった日には,悲惨な目に遭います。作者が,「旅に出るときにどんな本を持っていくか,という問題などは非常に難しいけれど非常に楽しい問題であり,わたくしなんぞは何時でも何回でも直面したいものだと思っている」という気持ち,じつによくわかります。
「隣りの狂気」
 作者が出会った「妄想女」の話です。10年前ですから,「ストーカ」という言葉が一般化する以前のことでしょうが,やっぱりこういった人というのは昔からいたんですね。ところで,「かつて自分自身が神経症で苦しんだことがあった」という文章を読んで,この作者の別の一面を見たように思いました。
「水の中の静かなひとびと」
 海好きの作者お得意の(?)「海洋奇談」を紹介した話。内容よりも,このタイトルのつけ方の秀逸さに敬服。
「おせっかい日本」
 『博物誌』所収の「苛々する本」と似たような内容ではありますが,やはり共感する部分が多いです。この節で紹介されている『現代無用物辞典』,わたしも楽しめた記憶があります。ところで最近,カップ麺などに「熱湯注意」ということが書いてありますが,その背後にはたしかに「消費者保護」という思想があるとはいえ,なんだか逆に消費者を,熱湯も扱えない幼児のごとく扱っているようにも見えて,あまり気分が良くないですね。これも「訴訟社会」アメリカの悪影響なのかなぁ・・・
「役人たちの安全」
 作者の言う,「役人たちが『危険』だと,果たしてどのくらいその当事者に対して本気で考えて言っているのだろうか」という疑問は,わたしもよく感じるところです。「おせっかい日本」と相通ずるものがありますね。
「ポケミスの女」
 作者のSFに対する熱い思いを語ったエピソード。作者が見かけたという,通勤電車の中でポケミスを読んでいる女性って,たしかにかっこいいですね。
「ロマンの現場読み」
 事前にテレビなどで映像を見てしまうと,実際にその「現場」を見ても,その映像に多大なる影響を受けてしまう,という指摘は,「なるほど」と納得できるものがあります。作者がシルクロードに行ったとき,「あの流麗なテレビのシルクロードのテーマミュージックやそのナレーションがかまびすしく流れていた」というのは,けっして笑えませんね。でも,映像で見た風景に自分の身を実際に置いて,「ああ,やっぱり(映像通りに)いいねぇ」と思ってしまうことの方が,圧倒的に多いのかもしれません。

99/01/19読了

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