鮎川哲也編『怪奇探偵小説集3』ハルキ文庫 1998年

 戦前戦後の「怪奇探偵小説」,今風に言えばホラー,ファンタジィ,サイコ・サスペンスなどなどを集めたアンソロジィの最終巻です。一作一作の出来不出来,好き嫌いはともかくとして,希少な短編をこれだけ蒐集したという点で,やはり捨てがたいアンソロジィといえましょう。
 16編を収録しています。気に入った作品についてコメントします。

山本禾太郎「抱茗荷の説」
 君子の父親は,遍路のふたり連れに毒殺された。そして母親もまた溺死。わずかな記憶を頼りに彼女は真相を探る…
 どうも読んでいて既視感めいたものを感じていましたが,読み終わって,『幻影城』に再録されていたことを思い出しました。クライマックスが少々慌ただしいですが,最後に明かされる真相がせつないです。
伊豆実「呪われたヴァイオリン」
 幻の名器アンドレア・アマチを手にしてから智崎は人が変わってしまい…
 ヴァイオリンをめぐる因縁譚。西洋楽器を江戸時代はじめの隠れキリシタンに結びつけたところが新鮮です。
朝山蜻一「くびられた隠者」
 既読作品。感想はこちら
今日泊亜蘭「くすり指」
 占領軍のアメリカ人による殺人事件を調べてほしいと依頼された,元通訳の“私”は…
 内容的にはオーソドックスな怪談といったところですが,この作者の名前は,もっぱらSFとの絡みで耳にしていたので,こういう作品も書いていたのか,と驚きました。
平井蒼太「溺指」
 8月1日―それは“あたくし”の命日なのです…
 妻が夫に宛てた遺書という体裁。はっきりいって読みにくい文章ですが,そのねっとりまったり絡みつくような文章は,グロテスクで淫靡な人妻の秘密を描き出すのに,適当なのかもしれません。
狩久「壁の中の女」
 死期が迫っているにも関わらず,患者の眼に異様な美しさが宿るのはなぜ?
 この作品も,エロチックな幽霊譚といってしまえばそれまでですが,アイロニカルなラストが,この作者らしいといえばらしいです。

98/07/19読了

go back to "Novel's Room"