永井するみ『樹縛』新潮文庫 2001年

 12年前に失踪した男女の白骨死体が,秋田の杉林で発見された。死んだ男の親友・八田勲は,ある理由から,その死が心中ではないと確信し,調査をはじめる。一方,女の妹・坂本直里は,自社で開発した新建材が不可解なシックハウス症候群を引き起こしていることを知り,その原因を追及する。2本の捜査線が交錯するとき,事件は意外な展開を見せ・・・

 デビュウ作『枯れ蔵』で,「米」というユニークな題材を扱ったこの作者は,本作品では,「木材」を取り上げています。『枯れ蔵』が「食ミステリ」ならば,こちらは「住ミステリ」といったところです。これで,アパレル業界かなんかを舞台にした「衣ミステリ」を発表すれば,「衣食住ミステリ3部作」というわけですね(笑)。

 さて冗談はともかく,本作品を一読して,まず感じたことは,前作『枯れ蔵』とストーリィ展開がよく似ているな,ということです。12年前に失踪した男女が白骨死体で発見されたことに端を発して,彼らの死の真相をめぐる調査が進められます。その一方,「室内花粉症」とでも言える不可解な「シックハウス症候群」の謎が追いかけられます。このふたつの,まったく性格の異なる「事件」が,ニアミスを繰り返しながら,そして手がかりが少しずつ小出しにされながら,絡まりあっていくプロセスは,サスペンスの常道とはいえ,前作との類似性を強く感じます。もちろん,これはけっして欠点ではなく,ストーリィ展開にほどよいテンポを与えていますし,前半で引かれた伏線を上手にすくい取っているところなども,よかったですね。
 また前作では東南アジア,本作では中国と,日本人の生活基本−食と住−が,良きにつけ悪しきにつけ,近隣諸国の経済と分かちがたく関係していることを浮き彫りにさせている点も,似通っています。ただしこの点についていえば,本作の方が,メイン・ストーリィに有機的に結びついています。つまり,前作のストーリィ手法を踏襲するものでありながらも,「お話」としてのまとまり具合は,よりよいものになっているように思います。

 しかしそれにしても,主人公の女性を30歳前後のキャリア・ウーマンにし,なおかつ妻子ある男性に対して恋心を抱かせる設定まで,踏襲しているのは,ちょっと芸がないようにも思います。骨太の設定だからこそ,そういった恋愛を絡めることで「味付け」をしているのかもしれませんが,やっぱり「贅肉」に思えてしまうわたしは,相当の朴念仁なんでしょうかね?(あくまで個人的な趣味なんですが,こういった社会的なテーマを色濃く漂わせた作品には,男女の恋愛的結びつきよりも,「同志」的な関係の方がしっくり来るように思ってしまうのです(^^ゞ)

01/03/11読了

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