西澤保彦『複製症候群』講談社ノベルズ 1997年

 突如,世界各地に出現した,巨大な虹色の円筒,通称“ストロー”。それに触れると,またたくまに,オリジナルと(記憶までもが)寸分違わぬコピー人間ができてしまう。ストローの内部に閉じこめられた高校生たちは,そこで殺人事件に巻き込まれる。犯人は,そして被害者は,オリジナル? それともコピー? 極限状況の中で主人公・下石貴樹が見いだしたものとは?

  さてさて突飛なSF的設定のミステリを描くことで有名な西澤保彦の新作は,“コピー人間”です。この作者のあまり熱心な読者ではなく,既読のSF的設定ミステリも『人格転移の殺人』『死者は黄泉が得る』の2冊だけですが,それらに比べると,すこしばかり雰囲気が違うように思えます。なにより展開がスピーディで,つぎからつぎへと新たな謎が飛び出してきます。それらに振り回されているうちに,「あれよ,あれよ」という間に,一気にラストまで読み通せます。突然不可解な状況に投げ込まれた,平凡な(多少屈折した)高校生が遭遇する異常な経験,といったパニック小説的な一面も持っているといえましょう。また,この作者のことだから,最後の最後で「大どんでん返し」が用意されているに違いない,と(勝手に)思っていたのですが,一応落としていることは落としているものの,エンディングは少々あっさり風味です。本格物としては,設定そのものは(あいかわらず)大仰で,トリッキーでしたが,その中で起こる事件やその謎解きは小粒のようで,あまり「騙される快感」は感じられませんでした。どちらかというと,サスペンスもののような「翻弄される快感」の方が強かったですね。この作者の違う側面を見たように思います(おいおい,2冊しか読んでないのに,そんなこと言ってしまっていいのか?(^^;)。

 ただ登場人物の性格が,わかりやすいと言えばわかりやすいのですが,ややオーバーアクションというか,デフォルメされすぎている気配が感じられます。とくに栖壁邸での,××と素直さとの紙一重みたいな篤志や,まるっきりキャピキャピ(死語)の草光1・2号の描写は,鼻白んでしまいました。それと「そのときは知らなかったが・・・」とか「後から考えると・・・」みたいな描き方は,後半のサスペンスを盛り上げるのには有効な方法なのでしょうが,何回も出てくると,少々うんざりします。

 「電悩痴帯」の藤田さんが,今月発売の講談社ノベルズについて,「あなたは森派? 西澤派?」と書いておられましたが,この2冊だけに限っていえば(あくまで「限っていえば」ですよ),わたしは西澤作品の方がおもしろかったですね。

97/07/22読了

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