大瀧啓裕編『ホラー&ファンタシイ傑作選4』青心社 1988年

 『ウィアードテイルズ』からのアンソロジィ第4集。9編を収録しています。

メアリー・エリザベス・カウンセルマン「ママ」
 孤児のマータは,今でも死んだママが自分を守ってくれているという…
 あっさりとした幕引きに,ちょっと物足りないところを感じないでもありませんが,むしろこのラストだからこそ,後味のよいコンパクトにまとまった作品にもなっているわけでしょう。
フランク・グルーバー「十三階」
 アンソロジィ『恐怖と幻想 第2巻』「十三階の女」という邦題で収録。感想文はそちらに。
ポール・アーンスト「奇妙な患者」
 その精神病院の患者は,見えない道具で見えないモノを作っていた…
 「狂気」とみなされていたものがじつは…というパターンは,ホラーの定番のひとつですが,「患者」の「世界観」−それはわたしたちにも共通するものがあります−ゆえに,恐怖よりも,奇妙さと哀しみが入り交じった作品になっています。
ウィリアム・F・テンプル「恐怖の三角形」
 作家の周囲に怪異な現象が,立て続けに生じた原因は…
 異界との「通路」として,さまざまなアイテムが用いられますが,本編では,それをひとつの「パターン」としているところがいいですね(伝奇的な理屈付けをしている点がけっこう好み)。さらにその「パターン」によって生じる怪異の「実体」の設定も,ひねりが加えてあって楽しめました。
ハロルド・ロウアー「夢を売る女」
 半年前に妻を亡くした男は,その店で“夢”を買う…
 素材的にはおもしろいと想うのですが,ヴォリュームがちと足りない感じ。店の女主人の心理描写が,もう少しほしいところです。
ハネス・ボク「邪悪な人形」
 売れない画家が,モデルの人形を作った理由は…
 クラシカルな人形魔術譚です。その魔術をいかに打ち破るか,という着想はユニークでいいのですが,そこに至るまでの経緯,またそれを発想する主人公の設定がいまひとつ描写不足で,結末がやや唐突な観がまぬがれません。
フランク・オーウェン「青の都」
 あと半年の命を宣告された男は,導師とともに“青の都”におもむくが…
 中国(?)を舞台にしたファンタジィ。欧米人が「中国(あるいはアジア)」を,どのようにイメージしていたかを知る上で興味深い作品です。とくに導師の言動こそが,欧米人にとっての「中国思想」のエッセンスなのでしょう。
ジャック・スノー「毒」
 真夜中,ちょうど12時に,毒をあおいだ彼女は…
 「求めよ,さらば与えられん」という言葉を,ときおり耳にしますが,もしかすると「死」もまた同様なのかもしれません。
リチャード・マテイスン「スローター邸の惨劇」
 その屋敷に移り住んで以来,弟はすっかり人が変わってしまい…
 屋敷に取り憑いた悪霊が居住者に災難を与えるという,オーソドクスな「幽霊屋敷譚」ではありますが,本編の魅力は,その迫力ある描写にあります。とくに主人公(“草稿”の書き手)が,取り憑かれる場面でのエロチシズム,悪霊が自分の意志を乗っ取ろうとするときの緊迫感,そして闘争がクライマクスへと向かうスピード感,映像性など,ぐいぐいとストーリィを引っ張っていきます。本集中,一番楽しめました。

05/08/21読了

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