鮎川哲也編『本格推理10 独創の殺人鬼たち』光文社文庫 1997年
鮎川哲也編のこのシリーズもはや10集目です。気のせいか,エキセントリックなペンネームが多少影をひそめたような・・・。ところで巻末に山前譲の「必読本格推理短編五十選」がつけられていますが,『硝子の家』の感想文でも書きましたように,誰のために,なんのために「必要」なのかよくわからない「必読」というタイトル,やっぱりなじめません。
砂能七行「手首を持ち歩く男」
新幹線“のぞみ”の車内,手首を持ち歩く不気味な男,そして殺人事件が…
事件の解決は論理的でおもしろいのですが,ラストが妙に奇をてらったような感じで,いまいちです(たしかに「奇をてらう」のが本格推理の魅力のひとつではあるのですが・・・)。
二見晃司「鉛筆を削る男」
“理想の鉛筆”を追い求める男が,ついにそれを発見! しかしそのときに背後に影が…
ダイイング・メッセージをめぐる推理は,本格物のパロディのようにも見えます。推理の展開は,少々妄想的な感じです。
内藤和宏「ダイエットな密室」
ダイエット用に作られた密室で女性が餓死。“私”は刑事とともに乗り込むが…
トリック(?)そのものはあまり大したことはないと思いますが,ひねりの効いたオチがうまいです。苦笑してしまいました。
大倉崇裕「エジプト人がやってきた」
殺された男の部屋には,アラビア語で呪いの血文字が…
なんとも突拍子もない着眼点がおもしろいです。ただ「リ××××」にした方が説得力があったのでは?
鈴木夜行「紫陽花の呟き」
財閥の女主人から,60年前に失踪した双子の姉の捜索を依頼された“私”と相棒は…
途中でネタ割れしてしまいます。それと短編でくどくど登場人物の描写があるのは,読んでいてつらい・・・。
高島哲裕「ビルの谷間のチョコレート」
バレンタインデー,ビルの谷間に落ちていた粉々に砕かれたチョコレートから,田辺さんは“悲恋”を推理するが…
しかし,犯人は,なんでわざわざこんな殺し方をしたのでしょうか?
網浦圭「夏の幻想」
子どもの頃,ほんのひとときを過ごした海辺の街。暗い過去と向き合うため,“私”はその街を再訪するが…
すっきりとした文章で読みやすいですし,エンディングがさわやかです。ただ探偵役の推理の過程が,よくわからないところがありました。
守矢帝「冷たい夏」
友人の山荘へ遊びに来た大学生7人。ところがひとりが縊死体で発見され…
トリックは見当つきますが,その解明のプロセスは小気味よいです。“はずれた推理”と犯人の動機がを,うだうだと書き連ねているのが難。
織月冬馬「透明な鍵」
友人の父親が密室で殺害される。容疑は友人に向けられ…
不思議なもので,似たようなトリックは,ある日,複数の人々の頭の中に出現するようです。シンクロシニティってやつですか?
城平京「飢えた天使」
女性画家がトイレの中で餓死。容疑は同じ画家の夫に向けられるが,彼は記憶喪失に…
「餓死」ネタがふたつもあるのは,なんとも奇遇な・・・。結末部での探偵のやり方は,ちょっと不自然な感がいなめません。
葉月馨「サンタクロースの足跡」
子どもの頃,サンタクロースは,“僕”の眠る閉ざされた部屋にプレゼントを残し,煙のように消えてしまった…
結末のほのぼのとした余韻が好きです。
荻生亘「SNOW BOUND 雪上の足跡」
険悪な仲の伯父と甥が,同時に首吊り自殺をした?…
読み終わってタイトルを改めて見ると,にやりとさせられます。こういったひねった作品は好きです。
濱手崇行「肖像画(ポートレイト)」
奇妙な作風で知られる画家が死体で発見された。傍らには切り裂かれた肖像画が…
オーソドックスな,あまりにオーソドックスな感じです。まあ,それはそれでいいんですが,少々物足りない気も・・・。
97/07/21読了
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