大原まり子『一人で歩いていった猫』ハヤカワ文庫 1982年

 先日読んだ『タイム・リーパー』がけっこうおもしろかったので,同じ作者の『吸血鬼エフェメラ』を(タイトルに惹かれて)探しに行ったのですが,残念ながら見あたらず,こちらを買ってきました。この作者のデビュウ作品だそうです。
 舞台ははるかな未来。銀河系では,地球人の子孫とも噂される“調停者”と,ロボット帝国・アディアプロトンのふたつの超大国が覇権を争っています。猫族をはじめ,さまざまな“人間”たち,クローン人間,超能力者,ロボットたちが出会い,愛し,憎み,殺し合いながら“歴史”を創り上げていきます。
 そんな“未来史”にまつわる4つのエピソードがおさめられています。

「一人で歩いていった猫」
 “天使猫”たち7人の流刑囚は,進化の袋小路にはまりこんだ辺境の惑星“地球”に送り込まれることになり…
 歴史の初源に遡る旅は,いつも神話に行き着くのかもしれません。この物語は,そんな神話を描いているようにも思えます。しかしはるかな未来から見れば神話であっても,神話の中に生きるものたちにとって,それが現実なのです。その現実の中では,“天使の羽”も機械仕掛けなのでしょう。
「アムビヴァレンスの秋」
 惑星アムビヴァレンスの4つの季節は,その住人の心の移り変わりでもある。忘却の春,愛情の夏,哀しみの秋,そして憎しみの冬…
 主人公・タツミは,“第三(サード)”と呼ばれる無性人間です。おまけに“機狂い”という,周囲の機械を狂わせてしまう力を持っています。その人物造形は,“無性”という設定のせいでしょうか,性が未分化の少年少女たちのように思えます。地球の少年少女たちもやはりアムビヴァレンスな存在なのでしょうから・・・。
「リヴィング・インサイド・ユア・ラヴ」
 全身に鱗を持ち,魚のような顔をしたヴィ。7歳のとき,“力”に目覚めた彼女は,アダムという男と知り合い…
 ベースとなっているのは「みにくいアヒルの子」といったところでしょうか? あるいはまた一種の「貴種流離譚」とも呼べないこともありません。シノハラのクローンの持つそれぞれの個性が,なかなか楽しめました。「時間を消す能力」という,あまりに強烈な(物語の登場人物としては反則ぎりぎりの)超能力を持ったふたりの行く末について,別のエピソードを読んでみたいですね。
「親殺し」
 失恋の果てに,“親殺し号”に乗って宇宙へ飛び出した“私”クリスティーナは,アイラに出会い…
 大きな河の流れの中には,ときとして小さな渦ができることがあります。その渦に取り込まれた木の葉は,同じところをぐるぐるとぐるぐると回り続けます。しかしその小さな渦もまた,巨大な河の,まごうことなく一部なのです。そして小さな渦が河岸を少しずつ削り,ついには大河の流れさえも変えてしまうようなことがあるのかもしれません。
 最後の“図解”はたしかにわかりやすいですが,少々白けてしまいます。

 それぞれのエピソードが,多少ニアミスしていますが,もう少し本格的に関わってくると,個人的にはおもしろく読めるように思います。もっとも最初の作品集ですから,仕方ないのかもしれません。
 それとどうやら,“未来史”の中では,いくつかの作品に出てくる“猫族”がキーのような存在になるようですね。

98/03/04読了

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