水木しげる監修『変化<へんげ> 妖かしの宴2』PHP文庫 2000年

 『妖かしの宴 わらべ唄の呪い』に続く書き下ろしホラー・アンソロジィの第2弾です。10編の「変化」をテーマにした作品を収録しています。テーマの選択がよかったせいでしょう,前作よりもヴァラエティに富んだ作品が集められています(なお,本感想文で「変化」と,「 」付きで表記したものは「へんげ」とお読みください。それ以外は「へんか」です^^;;)。
 気に入った作品についてコメントします。

柴田よしき「ウォーターヒヤシンス」
 「ここぞ」という勝負にいつも負けてばかりいる“あたし”が,沼のほとりで見たものは…
 主人公の「負け」を,母親との関係を絡めて描いているところが,作品にじっとりとした憂鬱感を与えています。また「布袋葵」「ウォーターヒヤシンス」という語感の「ずれ」を,主人公の心境の変化に巧みに重ね合わせています。
飯野文彦「八つ話会」
 江戸時代に流行するも,幕府によって禁止された“八つ話会”を復活させようとしたところ…
 「やつばなしえ」と読ませるこの会は,作者のオリジナルなのでしょうか? それとも元ネタがあるのかな?(ご存じの方がおられたらご一報ください) 日本古来の,しかし最近では滅多に取り上げられることのない,とある「変化」を取り上げているところが,かえって新鮮です。
牧南恭子「向日葵」
 1枚の向日葵の絵には死んだ娘の不可思議な恋が秘められていた…
 死を目前にした少女の幻想的な恋を描いています。ひらがなを多用した文体が,その幻想性によくマッチしています。
芦辺哲「少年は怪人を夢見る」
 鉄骨に縛り付けられ,目の前には爆発寸前の爆薬。絶体絶命の彼の心に,みずからの半生がよみがえり…
 最近,この作家さんの江戸川乱歩へのオマージュにあふれた幻想作品を読む機会が多いのですが,ガチガチの本格ミステリ作家というイメージとのギャップに,ちょっと戸惑っていました。しかし,本書の作者紹介で,「幻想文学新人賞」を受賞して作家デビュウしていることを知り,もともとそういう性向があったのか,と納得した次第。本編でも,乱歩作品のきわめて有名なキャラクタの「本質」に迫る作品となっています。たしかに「変化」を扱っていますね。
牧野修「怪物癖」
 体育教師が失踪したのは“私”のせいだと囁かれるが,“私”は気にしない…
 冒頭から,主人公“私”の,自己言及的なセリフが何度も何度も繰り返され,いいようのない圧迫感,閉塞感に満ちています。サイコ・サスペンスっぽい雰囲気でストーリィが進みながら,「内面」が「外面」を喰らいはじめるという展開は,『MOUSE(マウス)』の作者らしいですね。
菅浩江「夜陰譚」
 夜の街を歩く“私”は,電信柱に不思議な刻み目を見つけ…
 「今の自分以外のものになりたい」という,おそらく多くの人が心の内に秘めているであろう「変身願望」を,美しく,ファンタジックに,そして残酷に描き出しています。詩的な文体が,内容によくマッチしています。

00/12/15読了

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