仁木悦子『林の中の家』講談社文庫 1978年(~-~)

 ヨーロッパ旅行中の水原家に下宿する仁木雄太郎・悦子兄弟。ある夜,彼らの元にかかってきた謎の電話は,悲鳴とともに突如切られる。「林の中の家・・・」の言葉を手がかりに,その家を探しだした兄弟が見つけたのは,ライオンのブロンズ像で殴り殺された女性の死体だった・・・。

 本作品中の事件を,仁木悦子(登場人物の方)が言うように「怪事件」とか,カバー裏解説のように「難事件」とか,なんとなく思えないのは,“新本格派”の悪しき(?)影響でしょうか? むしろ,徹頭徹尾「フーダニット」に絞った,スマートな作品,というのが読後の第一印象です。犯人のトリックがないわけではありませんが,探偵役の仁木雄太郎は,事件の関係者に会い,質問し,その答を集めていきます。彼らのちょっとした発言や行動の意味やニュアンスを細かく観察,分析し,そしてそれらが持つ矛盾点や不自然さを,ひとつずつ取り上げ,検討していきます。なぜ彼/彼女は,そんな不自然な行動をとったのか? なぜ彼/彼女は嘘をついたのか? なぜ彼/彼女の証言と彼/彼女の証言は矛盾するのか? などなど・・・。そしてより整合性の高い仮説を構築していく仁木雄太郎の姿は,どこかハードボイルド小説の探偵に通じるものさえ,感じます。もちろん,妹・悦子の人物造形や,軽快感のある文章によるテンポのいい展開,また登場人物への暖かな作者の目配りなどが与える印象は,ハードボイルドとまったく異なることは,いうまでもありませんが。

 そんなふうに,丁寧かつさりげなく引かれた伏線,フェアの展開,雄太郎の推理プロセスの明快さ,など,『猫は知っていた』と同様,楽しく読めた作品ではありますが,ただ最後のところでの犯人特定の理由(作中では4つほど挙げられています)が,ちょっと強引というか,しょうしょう根拠としては弱いかな,というところが不満点として残りました。もうちょっと確実なところがほしかったな,と思うのは,求めすぎですかね?

97/08/28読了

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