佐々木譲『ハロウィンに消えた』角川文庫 1996年

 アメリカの地方都市パクストンにある日系企業オルネイ社は,その差別的雇用制度で訴えられていた。経営コンサルタント田畑賢作は,その実態を調査し,雇用制度に問題があれば勧告するためにパクストンを訪れる。が,事態は彼の予想以上に緊迫していた。脅迫状,放火,爆破予告の電話・・・。そして爆破予告で揺れる最中,従業員の息子が行方不明に! 事故か?誘拐か? 誘拐ならば犯人とその目的は? 田畑は地元警察とともに真相を追う・・・

 やはりうまいですねえ。『夜にその名を呼べば』の感想文でも書きましたが,この作者は,事件の時間経過を思いっきり凝縮することで,物語をじつにサスペンスフルに盛り上げます。この作品でも,始まりは田畑がパクストンに入るところ,ハロウィンの夕方,午後4時15分前,そして事件が解決し,物語のエンディングは翌日0時52分。わずか8時間の物語です。そのくせ登場人物の行動や会話を通じて,事件の背後にある奥深い摩擦,不和,軋轢を描き出していきます。それをけっして「説明」に陥らせないところが,この作者の卓越した技量なのでしょう。

 さて物語は,爆破予告事件で混乱する企業,田畑の調査でしだいに明らかになる差別的雇用,行方不明になった子どもの母親の不安を交互に描きながら,徐々にサスペンスを高めていきます。このあたりイントロダクションとして,なんとも巧みで,物語にぐいぐいと引き込まれていきます。そして田畑とクラウス署長の捜査。犯人はやはりオルネイ社を馘首になった元社員なのか? その目的は? 子どもの行方は? と,緊迫感のある展開です。クライマックスで意外な犯人が明らかにされます。が,じつはもうひとひねり,二転三転する結末が用意されています。ミステリとして読むと,伏線が見え見えのところもあり,結末が予想できないわけではありませんが,そんなことは大した問題ではなく,一気に結末まで読み通させる緊張感と迫力のある展開はたいしたものだと思います(おかげで寝不足です(笑))。

 ところでアメリカにおける日系企業の地元との摩擦については,しばしばマスコミにも登場しますし,わたしの好きなコミック『オフィス北極星』も,まさにこのトラブルがテーマになっています。ですからたいへん興味深く読めました。ただこの作品で描かれる日本企業や日本人“社会”は,多少カリカチュウアされているんでしょうか? カリカチュウアではなくリアルなものだとしたら,あまりに情けなく,そして不気味ですねえ。

97/07/12読了

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