井上雅彦監修『GOD 異形コレクションXII』廣済堂文庫 1999年

 今回の「異形コレクション」のテーマは「神」です。
 聖なる神,邪な神,唯一の神,八百万の神,冷酷な裁きの神,慈愛あふれる救いの神,太古の神,現在の神,未来の神,概念としての神,実体としての神,父なる神,母なる神,力としての神,愛としての神,村の神,民族の神,あなたの神,わたしの神・・・
 神を敬う人,神を恐れる人,神を否定する人,神を無視する人,神と闘う人,神から逃げる人,神を利用する人,神を試す人,神を証明しようとする人,神に供物を捧げる人,神に供物として捧げられる人,神への供物を踏みにじる人,神となる人・・・
 さまざまな神とさまざまな人が織りなす,さまざまな物語。それが本アンソロジィです。
 気に入った作品にコメントします。

恩田睦「冷凍みかん」
 旧友たちと出かけた旅先で買った「冷凍みかん」。それは地球の運命を握っていた…
 「冷凍みかん」と「地球」という,まったくイメージの異なるものを結びつけた奇想が楽しめる作品です。ラストの一文を,いわば「オチ」として必要とするか,読者の想像力を限定してしまうということで不要と見るか微妙なところですね。
竹本健治「白の果ての扉」
 料理好きの友人・竜田が,本格的なカレーを作ったのがきっかけとなり,“僕”たちは経験したことのない領域に足を踏み入れる…
 本編中,ある有名なマンガについて触れられていますが,言及されていないもうひとつ別の作品が,その背景にあるように思います。「ホラー」ではくくれない「異形短編集」としての本アンソロジィだからこそ,収録された作品でしょう。思わず笑っちゃいます(笑) わたしだったら,ここまで行く前に,胃がぼろぼろになると思います(^^ゞ
速瀬れい「冥きより」
 都を離れた深山にひとり住む“わたし”。都では歌人として,浮かれ女として名を囁かれる“わたし”…
 深い闇の中で,蛍のごとく微光を発する女体―じつに幻想的でエロチシズムに横溢したイメージですね。そんな映像的なイメージと,挿入される和歌が醸し出す言語的なイメージとが交錯する佳品です。
篠田真由美「奇跡」
 “俺”の話を聞いてくれるんだって,パパ…そうさ,“俺”が最初に殺したのは友人のピノだったんだ…
 「信じること」と「試すこと」―そのぎりぎりの狭間で生を送ってきた主人公の哀しさと狂気が,淡々と語られる作品です。その淡々とした語り口であるがゆえに,ラストの一文がナイフのごとき鋭さを持つのでしょう。
牧野修「ドギィダディ」
 地下室に逃げ込んできた男は,青年の口から語られる話に聞き入り…
 キリスト教が伝えるさまざまな神話―天地創造,処女懐胎などなど―の,おぞましくもグロテスクなパロディです。「ドギィダディ」が発する意味不明の言葉は,選ばれた者しか理解できない「神の言葉」なのでしょう。ならば宗教とはなんなのでしょうか?
田中啓文「怪獣ジウス」
 映画撮影のため,<ガガ竜>に脳を移植されたジウスを待っていた運命は…
 「をを,そうきたか!」というラストが楽しめる作品です。たしかに,『黙示録』に表現された「獣」に相通ずるイメージが,あの「怪獣」は持っているのかもしれません。そしてそれはまた,神なき時代の「破壊神」でもあるのでしょう。その神への「供物」が核兵器であることもまた,すぐれて現代的です。
田中哲弥「初恋」
 「寄合」に参加できる年になった修介。その「寄合」に出されるのは葉子ちゃんだと聞いて…
 『トロピカル』所収の「猿駅」も不条理なイメージに満ち溢れた作品でしたが,本編はそれをさらに徹底した感があります。読んでいて,頭がくらくらしてきます。「言葉」によっても人はトリップできるのかもしれません。
加門七海「小さな祠」
 旅先で訪れた貧しい漁村。そこで彼は小さな祠と,それにまつわる“奇祭”を目撃し…
 小さな祠に群がる小さな村人たち,他人を蹴落とし,祠に“参拝”しようと殺到する村人たち――その奇怪な映像が鮮烈です。
菊地秀行「サラ金から参りました」
 貸し付けた金を取り立てに,宗教団体「金光教団」に“おれ”が,そこで見たものとは…
 「コズミック・ホラー」とも呼ばれる壮大な「神話」と,サラ金というコテコテの世俗ネタをドッキングさせた,これまた爆笑ものの作品です。「邪神」の復活を阻止しようとするキャラクタは数多く描かれますが,サラ金の社長というのは,なんともユニークですね。また「そんなこと」は気にしない「取り立て命」の主人公もいい味だしてます。

98/08/28読了

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