有栖川有栖『英国庭園の謎』講談社ノベルズ 1997年

 “臨床犯罪学者”火村英生と推理作家・有栖川有栖が遭遇する事件6編を集めた短編集。『ロシア紅茶の謎』に始まる「国名シリーズ」の第4弾です。第2・3弾は未読ですが,今回は,全体として,ちょっと物足りないような・・・・。

「雨天決行」
 雨上がりの公園で,人気エッセイスト・白石七恵が殺害された。彼女はその前日,何者かに「雨天決行」と電話で告げていた…
 「雨天決行」という謎の言葉をめぐって,火村の推理がなされるわけですが,読者が共有していない(であろう)知識をもとにした謎解きというのは,たしかに「意外性」はあるのかもしれませんが,謎が明かされても「ああ,そうですか」としか感想の持ちようがありません。また着眼点としてはおもしろいのでしょうが,下手すると「楽屋落ち」になってしまうのではないでしょうか。この作品集,なんだかこの手の作品が目立つような気がします。
「竜胆紅一の疑惑」
 「家族が自分を狙っている」という疑惑に取りつかれたスランプ状態の大物作家は,ことの真意の解明を火村に依頼するが…
 容疑者が少なすぎるというか,あまりに描写がいわくありげというか,火村の推理はたしかに論理的なのですが,そんな論理をよらずとも,結末の方がさきに見通せてしまうというのは,ミステリとしてはやはり考えものです。
「三つの日付」
 3年前に起こった殺人事件の容疑者は,その晩,有栖川有栖と一緒に酒を飲んでいたとアリバイを主張…
 火村が有栖の記憶を頼りに推理を進めていくプロセスは,それなりに説得力はあるのですが,結末は「雨天決行」と同様,「ああ,そうですか」になってしまっていて,物足りなさが残ります。
「完璧な遺書」
 横恋慕していた女性を殺してしまった「俺」は,自殺に偽装するため,彼女の残した手紙をもとに「完璧な遺書」を作成するが…
 作中唯一の倒叙ものです。犯人の行為にいったいどこにミスがあるのか,を気にしながら読んでいましたが,このような結末は予想できませんでした。ただ難しいかもしれませんが,伏線らしきものがあってもよかったのではないでしょうか。
「ジャバウォッキー」
 有栖と火村のもとにかかってきた1本の電話。それは,大きな犯罪を予告する内容だった…
 犯人からの電話を手がかりに,火村と有栖が犯人を追い求めるタイムリミットチェイスです。犯人の独特の言葉使いから,犯人の居場所を割り出していく展開は,緊迫感があり,また結末も,さりげなく伏線が引かれています。本作品集では一番楽しめました。
「英国庭園の謎」
 英国かぶれの富豪が催した風変わりな宝探しゲーム。その最中,富豪が殺され…
 暗号ものです。個人的に,どうも暗号ものは苦手で,暗号がでてくると,読んでいて腰が引けてしまうところがあります。ただこの作品は,暗号解読とともに,暗号を解くプロセスそのものから推理を展開するあたり,おもしろかったです。ちょっと庭園の講義が冗長でしたが・・・。

97/06/30読了

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