コナン・ドイル『ドイル傑作集II−海洋奇談編−』新潮文庫 1958年

 サブタイトルにある内容の短編6編を収録しています。

「縞のある衣類箱」
 漂流船で“私”たちが発見したのは,男の死体と縞模様の箱だった…
 沈みかけた漂流船,財宝を積んでいるという記録,頭部を割られた死体,奇妙な箱…たたみかけるようなミステリアスなアイテムが,ぐいぐいとストーリィを引っ張り,またクライマクスでも,一瞬,安心させた上でのうっちゃりと,抜群のストーリィ・テリングが味わえる作品です。
「ポールスター号船長」
 この作者の短編集『北極星号の船長』「北極星号の船長」という邦題で収録。感想文はそちらに。
「たる工場の怪」
 『北極星号の船長』「樽工場の怪」という邦題で収録。感想文はそちらに。
「ジェランドの航海」
 開国直後のヨコハマで,バクチの穴を埋めるために公金に手を付けた男は…
 1908年発表の本編,またドイルの生年が1859年であることを考えると,この作者もまた「時代の子」であったのだな,とつくづく思わせるジャポニスムに満ちた作品です。ただストーリィ的には,ひねりや起伏に乏しく,この作者に期待するところのお話作りの上手さが,いまひとつ出ていない感じがします。
「ジェ・ハバカク・ジェフスンの遺書」
 海上で船員がすべて消えてしまったマリイ・セレスト号…その真相を“私”は書き残す…
 1873年に起こった,有名な「マリー・セレスト号の謎」を題材とした作品です。この事件の少し前のアメリカ南北戦争(1861〜63年)を,巧みにストーリィに絡ませながら,「意外な真相」を描いています。後半に出てくる伝奇っぽいところが,いまひとつ尻切れトンボ的ではありますが…ところで,このマリー・セレスト号の「謎」,どうやら当時のメディアのでっちあげが元だったらしいですね(<と学会の本で読んだような気がするのですが,出典が確認できませんでした。すみません(_○_))
「あの四角い箱」
 イギリスへ向かう客船で,“私”は不穏な密談を耳にしてしまい…
 もしかすると発表当時は「ひねった」作品だったのかもしれませんが…う〜む…「オチ」そのものはわからなくても,「オチの方向性」みたいのが見えてしまいます。どうせなら,もっとスラプスティク風なテイストにしてしまうのも「手」だったのかも?

05/04/24読了

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