ジャネット・ハッチングズ編『夜汽車はバビロンへ』扶桑社ミステリー 2000年

 『双生児』に続く「EQMM90年代ベスト・ミステリー」の2巻目です(といっても,原本では“The Cutting Edge”として1冊なのかもしれませんが)。12編を収録しています。
 気に入った作品についてコメントします。

アンドリュー・バクス「引きまわし」
 少女殺害犯を逮捕した“おれ”は,マスコミを前にして…
 ビター・テイストのひねりの利いたショート・ミステリです。「もしかしたら,あるかも?」と思ってしまう現代日本は,正直ちょっと怖いですね。
ジャニス・ロウ「銀幕のスター」
 「おまえを殺す」――夫の殺意に恐怖した妻は逃げだし,別人としての生活を送るが…
 恐怖に対抗するためには,いくつかの方法があるかと思いますが,この主人公が取ったようなやり方―「まずは形から」―も,ひとつの有効な方法なのかもしれません。
ルース・レンデル「衣装」
 有能なキャリア・ウーマンであるアリスンには,次から次へと衣装を衝動買いする悪い癖があり…
 買い物依存症の主人公が,しだいしだいに破滅へと向かっていく姿を描いています。中途半端な理由づけをせずに,淡々とその破滅を描いているところは,この作者の「辛辣さ」が十二分に発揮されていると言えましょう。
キャロリン・G・ハート「追憶」
 盗難容疑をかけられた教え子のために,調査をはじめた“わたし”は…
 けっして一筋縄ではいかない,タフな,元ジャーナリストの主人公のキャラクタがいいですね。とくに,彼女の性格がくっきりと浮かび上がるオープニングとエンディング・シーンは秀逸。結末もひねりが加えられていて楽しめました。
レイ・ブラッドベリ「夜汽車はバビロンへ」
 夜汽車の中で行われるインチキ賭博に気づいたジェームズは…
 豪雨の中を疾駆する夜汽車,主人公とイカサマ師との行き詰まる駆け引き,しだいに盛り上がる殺気だった周囲の雰囲気・・・シチュエーションといい,展開といい,全編これ緊迫感の塊といった作品です。哀愁を帯びたエンディングも合わせて,本作品集で一番楽しめました。さすがブラッドベリ!
ジャネット・ラピエール「ルミナリアでクリスマスを」
 ひとり暮らしの偏屈な老婆の元に,世話好きそうなカップルが訪れるが…
 正体のはっきりしない「客」に対する主人公のおびえが,じわじわと伝わってきます。またクリスマスの小道具を上手に用いたラストのツイストもグッドです。

00/11/08読了

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