倉阪鬼一郎『赤い額縁』幻冬舎 1998年

 ジョーグ・N・ドゥームなる謎の作家が書いた小説『THE RED FRAME-THE MOST HORRIBLE TALE IN THE WORLD』・・・。その書を繙いた者は,ある者は失踪し,またある者は不可解な死を遂げるという噂が囁かれる。無名の怪奇作家と駆け出しの翻訳家。はからずもこの本を手にしたふたりを待っていたものは・・・。

 物語は,前半,三つの流れで構成されます。ひとつはホラータッチのゲーム・ブックの執筆を依頼され四苦八苦する怪奇作家・古地留記夫。彼はパソコン通信で『THE RED FRAME』を購入,その本にインスパイアされ,つぎつぎと不気味で残酷なシーンを執筆していきます。もうひとつは,出版社から『THE RED FRAME』の翻訳を依頼された彩川繭子。デビュウしたての彼女に依頼があったのは,前任者の翻訳家・押絵旅男が謎の失踪を遂げてしまったから。そして,とぼけた吸血鬼コンビ,黒川とゴーストハンター。彼らもまた『THE RED FRAME』の謎を追います(彼らは『百鬼譚の夜』にも出てきます)。そして彼らの住む町では連続少女誘拐殺人事件が発生し,黒川らはその犯人も追います(といっても,義憤にかられて,というより,不死という長い退屈な生の暇つぶしとして・・・)。
 「A・B・C・・・」と題された各章は,彼ら3組4人の行動を交互に描いていきます。サスペンス小説であれば,それらの流れがラストで合流,クライマックスへとつながっていくのですが(そんな風な展開を予想していたのですが),物語半ば,ストーリィは複雑に錯綜し始めます。「現実」と「虚構」が入り交じり,「書き手」は「作中人物」へと転落し,誰が「実在」し,誰が「虚構の人物」なのかわからぬまま,混迷の淵へと導かれていきます。さらに本書のメイン・モチーフ『THE RED FRAME』に秘められた謎が絡んできます。その様は,いみじくも古地が作中で述べているように,
「ホラーは世界を終わらせるんです。世界を闇に閉ざし,読者の足場を崩壊させるんです。怪物を退治するなんて論外。ホラーの登場人物はことごとく破滅して,闇なる異形のものが最後に勝つんです」
を,「地」でいっているような展開で,「果たしてどのような結末が待ち受けているのか?」という期待に,「『THE RED FRAME』とはいったいなんなのか?」という興味を併せ持って,ぐいぐいと読み進んでいけます。
 そして終盤,混迷に混迷を,錯綜に錯綜を重ねたストーリィは,一気に反転,まったく異なる姿となって立ち現れてきます。それは,「ホラー」と「ミステリ」の分水嶺をひた走りに走ってきたストーリィのひとつの決着の付け方ではあります。ありますが,途中までの,世界が崩壊寸前にまで至った展開の迫力に比べると,いまひとつという感じが拭いきれません。いろいろとアナグラムを多用しており,凝った作りになっている点は,楽しめないことはないのですが,そのわりに物語としての構造の単純さが目立ってしまっているように思います。また作者が「あとがき」でも書いているように,ひとつの試みとしては,おもしろいものだとは思いますが,ただどうしても「二兎追うものは・・・」という俗諺が聞こえてきそうな感じもします。

98/11/22読了

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