ドロシー・L・セイヤーズほか『ネコ好きに捧げるミステリー』光文社文庫 1990年

 「名は体を表す」という俗諺がありますが,これほど内容を明確に示したタイトルのアンソロジィも珍しいのではないかと思います。そのものずばり,ネコをめぐるミステリ(&ホラー&ファンタジィ)短編12編を収録しています。気に入った作品についてコメントします。

ヘンリー・スレッサー「猫の子」
 “ぼく”の父親は,正真正銘の猫だった…
 どこかで読んだな,と思っていたら,『魔法の猫』収録作品でした。じつはそのときの感想文では「気に入った作品」に入ってないんですよね^^;; でも今回は,けっこう楽しめました(つくづく自分の一貫性の無さにあきれます(笑))。ファンタジィなのか,それとも主人公が長年に渡って培った“狂気”の物語なのか,そのへんの曖昧さが,本編の持ち味なのでしょう。
ジョイス・ハリントン「灰色の猫」
 エリーが餌を与えていた野良猫が行方不明に…ミス・スイスが殺したに違いないと,殺意を抱くエリー…
 ありがちな「幼い狂気」を描いているように見せておいて,思わぬツイスト。そのうえでのもうひとひねり,ダブル・ツイストが巧いですね。う〜む…この作品もどこかで読んだことがあるような…(°°)(デジャビュ?^^;;)
リリアン・ジャクスン・ブラウン「八時三十分の幽霊」
 アパートの隣室に住む変人が,精神病院に入れられたと聞いた“わたし”の姉は…
 ホラー・テイストとミステリ・テイストとの融合した作品。個人的にはもう少しミステリ的な伏線がほしいところではありますが,妄想と思われていたものが,現実によって裏付けられるところは,逆に怖いですよね。
ステラ・ホワイトロー「彼はあたしのもの」
 “あたし”と彼との幸福な生活。そこに割り込んできたものは…
 「手品」の基本のような作品。つまり,見る者の視線を「別のもの」に引きつけておきながら,その間に「種」を仕込む,そんな感じの作品です。ラストの「気の合うもの同士」というのは苦笑を誘います。
ドロシー・L・セイヤーズ「キプロス猫」
 “私”は,猫を撃っただけで,死刑にならなきゃいけないのか…
 セイヤーズだから,もうひとひねりを期待していたのですが…それでも,予兆めいたファースト・コンタクト,思わせぶりで曖昧な因果関係,そして破局…と,オーソドクスな怪奇小説としての味わいがあります。
L・J・リトケ「猫の重罪」
 猫に見えるジェロームにとって,ベニーとの出会いは,最悪以外の何ものでもなかった…
 フィクションのおもしろさは,「比喩」を作中において「現実」にしてしまえることでしょう。現実にはありえない「猫」と,「比喩」としての「ドブ鼠」が同一地平に共存する奇妙な世界です。高橋葉介の作品を連想しました(設定はますむらひろしなんですが・・・)
クラーク・ハワード「老友モリー」
 妻の残した老猫が行方不明に。老人は必死になって探すが…
 平凡な小市民である老人と,札付きの不良青年とのミス・マッチなカップリングがおもしろいですね。ふたりのずれたような,それでいて軽妙な会話が,ストーリィにほどよいテンポを与えています。犯罪を描きながら,清々しい印象が得られるラストがいいですね。

01/11/02読了

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