J・ダン&G・ドゾワ編『魔法の猫』扶桑社ミステリー 1998年

 猫をテーマあるいは素材にしたSF,ファンタジィ,ホラー,ミステリなどなど,17編をおさめたアンソロジィです。“猫”という点では各編共通していますが,収録された作品のジャンルがあまりに広すぎて,アンソロジィとしては,いまひとつ焦点が絞り切れていない感じです。またわたしが,SFやファンタジィよりも,ミステリ,ホラーの方に嗜好が偏っていることもあり,楽しめる作品とピンとない作品とがない交ぜになっていることも,いまいちと感じた原因のひとつだと思います。
 気に入った作品についてコメントします。

スティーヴン・キング「魔性の猫」
 殺し屋のホルストンに依頼された内容は,1匹の猫を,3人の人間を殺したという猫を始末することだった…
 キングの未訳短編で,どうやら本書の目玉のようです。ストレートなホラーですが,やはり語り口の巧さはキングならではのものでしょう。
パメラ・サージェント「猫は知っている」
 ある日,地球上のあらゆる動物が言葉を話し始めた…
 ペットというのは,家庭のプライバシィや秘密をもっとも深く知りうる立場にあるのかもしれません。そんな彼らが言葉を話し始めたときのパニックを描いていますが,それ以上に怖いのは,人間という生き物は,たとえ相手が言葉を話しても,心の一部を凍結させることによって殺すことができる,ということなのでしょう。
テリー&キャロル・カー「生まれつきの猫もいる」
 アリスンの飼っている猫ギルガメシュはどうも猫らしくない。もしかして宇宙人?
 猫らしい猫がじつは…,というユーモアのあるオチです。猫好きの人はこれを読んで納得するか,あるいは怒るでしょうね(笑)。
ノックス・バーガー「愛猫家」
 愛猫家のハリントンは,飼っている猫が不治の病に冒されていることを知り,重い決断を迫られる…
 猫は魔性のものとの結びつきが強いものという考えが古くからあるせいなのでしょうか,猫に関するホラーというのはオーソドックスなものが多いのかもしれません。この作品もホラーというより怪談といった方が似合いそうな雰囲気です。
ゲリー・ジェニングス「トム・キャット」
 トムは,吝嗇なエマおばさんから遺産を受け継ぐために,一計を案じ…
 ばかばかしいことをまじめにやっていることで笑いをとるB級コメディのような作品です。笑いながらも,妙な薄ら寒さを感じてしまったのはわたしだけでしょうか?
R・シルヴァーバーグ&R・ギャレット「ささやかな知恵」
 星間戦争の和平交渉に来たカペラ第9惑星のポガサン人代表団。彼らが宿泊する協会で殺人事件が発生し…
 SFミステリです。なぜ猫を殺したのか,という動機がなかなか独創的で,「なるほど,こういう手もあったのか」と感心しました。刑事の「はったり」と犯人の反応も笑えます。本作品集では一番楽しめました(やっぱりわたしはミステリ者(苦笑))。

98/04/04読了

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