梅原克文『ソリトンの悪魔』上下巻 ソノラマノベルズ 1995年

 八重山諸島沖の海上情報都市“オーシャンテクノポリス”が,何ものかの襲撃を受け,一瞬のうちに壊滅。海底油田基地主任・倉瀬厚志のひとり娘・美玲がその最中,潜水艦の中で遭難。倉瀬は元妻・劉秋華とともに,自衛隊の深海救難艇に乗り込み救出に向かう。そこで彼らが見たものは・・・

 『二重螺旋の悪魔』につづく「荒唐無稽ごった煮小説」(笑)の第2弾であります。前作もかなりぶっ飛んでいましたが,今回もなかなか楽しませてくれました。それに前作に比べると,かなりソフィストケートされた感じがして,読みやすく,ぐいぐいと一気に読み進めていけました。
 まず時間的にかなり凝縮されていることから,ストーリーの展開がスピーディです。オープニングの思いっきり派手な海上都市の壊滅から,深海艇への<蛇>の襲撃,機密を守ろうとする自衛隊との息詰まる駆け引き,と,さながらドミノ倒しのごとく物語は快調に展開していきます。よくアクション映画の煽り文句で「5分に一度,手に汗握ります!」的な表現がありますが(ホラーだったら「5分に一度の悲鳴」といったところでしょうか?),まさにそういった文句がよく似合う展開です。そして“ソリトン生命体”の接触,しだいに明らかになる<蛇>の正体,クライマックスは<蛇>との全面対決!,で終わりと思いきやもうひとひねりのエンディング,と,二重三重にツイストする最終局面も迫力があり,効果的です。なんといってもラストが後味の良いのいいですね(ここらへんもアメリカのアクション映画の文法をしっかり踏襲しています)。
 また今回は前作と違い(前作との比較ばかりで申し訳ありませんが),視点を複数設定し,複数の人間の思惑や意図が錯綜し,重なり合いながら,一点に収束していくという手法は,常道とはいえ,やはりサスペンスを盛り上げるのに一役かっているようです。それともう1点,物語の性格上,かなり専門用語が多出しますが,その扱いもうまく処理されていて,ストーリーを停滞させることなく,スムーズに読めます。作者自身は「『二重螺旋』と同じ手法」と書いてますが,同じ手法でもやはり使い方しだいでずいぶん違う感じがします。もちろんこちらの方が上です。

 ところでこの作品は,第49回日本推理作家協会賞を受賞した作品です。中島らもの『ガダラの豚』が受賞したときも,「えっ?」と多少驚きましたが,この作品も,それ以上に驚いてます。『このミス'97』の匿名座談会ではありませんが,「ミステリ・リーグ」というより「SFリーグ」ですよねぇ,やっぱりこの作品。日本推理作家協会もすそ野が広いというか,なんでもありというか,節操がないというか(笑)・・・・。まぁ,おもしろければレッテルなんて関係ないのでしょう。

97/12/31読了

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