梅原克文『二重螺旋の悪魔(上・下)』ソノラマノベルズ 1993年

 人類のDNAに含まれている塩基文字配列・イントロン。なんの役にも立っていないと思われていたそれは,じつは暗号化されていた! その暗号を解いたとき,恐るべき“二重螺旋の悪魔”が蘇る・・・。遺伝子操作監視委員会C部門調査官“おれ”深尾直樹は,“悪魔”によって殺された親友とかつての恋人の仇を討つため,悪魔との闘いに身を投じる・・・・。

 ううむ,なんと呼べばいいんでしょう,こういう小説は。作者によれば「SF&スーパージャンル小説」と名づけられているのですが,言い方を変えれば「荒唐無稽ごった煮小説」(笑)。物語の始まり,第1部は,なかなかミステリアスです。バイオベンチャー企業“ライフテック社”で起きた「生物災害(バイオハザード)」,その調査に来た主人公の“おれ”。ストーリーは,現在と過去が交互に描かれ,主人公の来歴やら性格やらが描かれるとともに,この物語の基本的なネタが明らかにされていきます(主人公の造形は,かつての「アダルト・ウルフガイ」を彷彿とさせます)。ここらへんの展開は,主人公の軽快な口の悪さとも相まって,スピーディに展開していきます。で,第2部にはいると,さらに荒唐無稽さの度が増しいきます。イントロンに封印されていた“悪魔”に対抗するため,超人と化した“おれ”は,かつての恋人を殺した“悪魔”と全面対決します。荒唐無稽な小説を,ときおり「マンガチック」と評するときがあります。わたしとしては,小説でもマンガでも,表現方法が違いこそすれ,「物語」としては同じものであると思っていますので,この表現はあまり好きではないのですが,超人vs悪魔の対決はまさにマンガチックです。なぜなら,主人公自身が,みずから置かれたとんでもない状況を「マンガ的」と呼んでいるんですから(笑)。また本作品では,クトゥルー神話への言及が再三あるのですが,この物語は,「神話内部」の話ではなく,クトゥルー神話がフィクションであることを認めた上で,神話をなぞったような悪夢が現実かする世界が描かれています。「マンガ的」という表現やらクトゥルーやら,まるで作者が,「このお話は,フィクションなんですよぅ,ホラ話なんですよぅ」と,二重三重に宣言(「開き直り」ともいう)しているように思えます。

 さて「黙示録」と名づけられた第3部(下巻)になると,破天荒さは一気にスパークします。上巻(第1・2部)まで読んだ時点では,「ああ,これは「××ハンター」みたいに,平穏な世の中の裏側で進行する人類と異生物との果てしなき闘争を描いていくのかな。その過程で“悪魔”の正体やらなにやらがしだいに明らかになるのかな」と思っていたのですが,下巻に入ってあっさりその予想は裏切られました。下巻を開くと,そこでは“二重螺旋の悪魔=GOO”との全面戦争へと突入していきます。「生物災害」で東京は壊滅するわ,その東京はGOOに占拠されるわ,核戦争は起こって米ロは崩壊するわ,人類「最終軍」とGOOとは,いつ終わるとも知れぬ闘いを繰り広げるわ,その展開の強引さに,思わず開いた口が閉じられない状態です(なにしろ,今書いたことが,ほんの数ページで説明されてしまうんですから(苦笑))。それならまだしも(もう十分荒唐無稽ですが)下巻の後半になると,それさえも吹っ飛ぶような,とんでもない事態が待ち受けています。未読の方のために,その内容は書きませんが,わたしは目が点になってしまいました。比喩的に書くと,小松左京の『果てしなき流れの果てに』のネタを,思いっきり下世話にしたような話です(と,言っちゃっていいのか?)。どこか懐かしいテイストを持った壮大な大ボラ,そんな感じのする作品です。

 ただねえ,ちょっと長すぎるような気がします。たしかにジェットコースタ的な展開で,ずんずん読み進めてはいけるんですが,同じような表現が眼について,うんざりしてしまう部分もあります。とくに「〜〜しようとした。できなかった」という表現がやたらと多いです。最初の頃は,緊張感を高める上で,けっこう効果的な表現だと思ったのですが,これでもか,という感じで繰り返されると,「ほかに表現知らんのか!」と突っ込んでしまいたくなります。あと展開の強引さも何とかなりませんかねえ。よく言えば「裏切られる快感」なんですが,それが何度も重なると疲れます(笑)。

 同じ作者の次作『ソリトンの悪魔』が推理作家協会賞をとっているそうですので,そちらの方も読んでみたい気にはさせてくれる作品ではあります。

97/10/17読了

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