本岡類『斜め[首つりの木]殺人事件』光文社文庫 1994年

 8年前,北海道大雪山にヒグマに襲われ死亡した女性。4年前,オーストラリアで鮫に襲われ死亡した女性。ふたりの女性の夫は同一人物だった! マスコミが“疑惑”として騒ぐ中,渦中の人物が“正義仮面”を名乗る人物に誘拐され,殺害された! “正義仮面”とは何者か? そして“疑惑”の真相は?

 この作者の作品は,以前『白い森の幽霊殺人』を読んで,あまり楽しめなかった記憶があったので,これまで手に取らなかったのですが,古本屋で本書を見かけ,「1冊だけで評価してはいけないんじゃないか?」と思い,再チャレンジしてみました。が,結局,同じような印象しか得られませんでした(笑)。はっきり言って物足りないですねぇ。まず途中で,事件の大枠の真相は見当がついてしまいました。とくに疑惑渦中の人物がトイレから誘拐された事件の“真相”は,ストーリーの流れからすれば,“ある可能性”が十分考えられてしかるべきなのに,刑事たちの会議で“その可能性”がぜんぜん話題にのぼらないのが,非常に不自然に思えてしまいます。だから事件をめぐる刑事たちのスラプスティック風の行動も,ユーモア的味付けなんでしょうが,あんまり笑えません(とくにライギョこと大曽根刑事の言動は,あまりといえばあまりです)。また人間消失のトリックも,なんだかとってつけたような感じですし,その解明のきっかけも伏線もないようですので,どうもいただけません。タイトルにある「首つりの木」トリックも,作中人物が同じ行動をとったから可能なんだ,と強弁してますが,やはり現実味が乏しく机上の空論的な印象が免れません(「現実味が乏しい」という感想は,作品全体の雰囲気とマッチしているかどうかに左右されますので,「現実味が乏しいトリック」全部が嫌いなわけではありませんが,この作品の雰囲気には馴染んでいないと思います)。「なんでここまでやるの?」という気もしますし。正直なところ,「2時間推理ドラマ」を見たような,薄っぺらな読後感しか残りませんでした。まあ,さくさく読めるといえば読めるんですがねぇ。

97/10/27読了

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