森雅裕『画狂人ラプソディ』KKベストセラーズ 1997年

 浮世絵師・葛飾北斎をめぐる新資料を入手した芸大教授・七裂鉄人が殺された。その資料は,北斎がいずこかに埋蔵金を埋めたと伝えていた。芸大生の“おれ”と歌川,そして史美の3人は,その埋蔵金の行方を追い始める。その矢先,芸大は“偽バイオリン事件”を発端として,大きく揺れ始める。その背後には,芸大潰しを目論む下尾虎彦の影が・・・。彼もまた北斎の財宝を追い求めていた・・・。

 “幻のミステリ作家”森雅裕のデビュー作です。はるか昔に『モーツァルトは子守歌を歌わない』を講談社文庫版で読んだことがありますが(魔夜峰央が表紙を描いていました。しばらくは,モーツァルトというとパタリロみたいな顔が思い浮かんでしまいました(笑)),それ以来,まったく読んでいなかったのですが,今回,KKベストセラーズから,3作品「森雅裕幻コレクション」として復刊されたのを見て,読んでみました。

 物語は,葛飾北斎に関わる“新資料”を手がかりに,主人公3人組が,北斎が隠したという結城家の財宝を追い求めるストーリー,そして七裂教授殺害事件の謎をめぐる犯人探しのストーリー,さらには芸大を巡る汚職・不正事件と下尾虎彦による“芸大潰し”のストーリーと,複数の流れが平行して描かれていきます。作者自身,「あとがき」でも書いていることですが,詰め込み過ぎというか,ごちゃごちゃしている感が強く,少々読みづらいです。とくに前半部,北斎と埋蔵金をめぐる謎の提示の仕方が,説明的で,繰り返しも見られ,退屈してしまいました。その間,七裂殺しのほうが,ほっぽりだされてしまっているというようなところがあり,ストーリーの中心が見つけづらいとでもいいましょうか。
 また,北斎ネタや大学の不祥事ネタなどが,もちろんメインストーリーとまったく関係はないわけではありませんが,どこか中途半端な関係に終わってしまった印象が拭えません。北斎や芸大に対する作者の思い入れやこだわりは,十分に感じられるのですが,それが果たして物語の掛け替えのないファクタとして,きっちりとストーリーにはめ込まれていないように思え,物足りないものが残ってしまいました。

 それでも七裂殺しをめぐる“おれ”の推理は,すっきりしていて,多少見え見えの伏線がありますが,きっちり本格していたと思います。それと,主人公の“おれ”の鼻っ柱の強さ,つっぱらかし方が,なんともかわいくて,「おうおう,がんばれよ」と言いたくなります。

97/09/13読了

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