リチャード・マティスン『13のショック 異色作家短編集10』早川書房 1962年

 「奇妙な味シリーズ」の第10集です。タイトルどおり,13編を収録しています。

「ノアの子孫」
 深夜,辺鄙な田舎町で,スピード違反で捕まった男は…
 わたしはまだ行ったことがないのですが,北アメリカ大陸の広大さというのは,半端ではないのでしょう。ですから,その広大な大陸の「どこか」に,なにかわけのわからない「田舎町」があるという発想は,アメリカの作家さんにとって,ごく自然なものなのかもしれません。この作品や,スティーヴン・キングジョン・ソールを読むと,そんな風に思います。このタイトルの作品集の冒頭にふさわしい,不条理に満ちたショッキングなストーリィです。
「レミング」
 「また来た」…海岸にたたずむ警官はそう言った…
 前作に輪をかけた不条理な作品。しかし,「もしかすると,こんな「滅びの風景」もあるのかもしれない」と思わせるショートショートです。
「顔」
 その家には,首を切り裂かれた死体と,ひとりの少年がいた…
 一転,こちらは,ひとつの殺人事件をめぐる「理詰め」の作品です。しかし,その「理」とは,「狂人の論理」です。歯車の狂った「理」が,カタストロフへと至る様を,3通の手紙という体裁で,コンパクトかつ効果的に描き出しています。
「長距離電話」
 深夜,寝たきりの老嬢にかかってきた電話は…
 主人公の孤独と混乱,不安と恐怖を,少しずつ少しずつ積み重ねながら,ラストの破局へと上手につなげており,最後の一言で「ぞくり」と来る怪談です。また読み終わって,タイトルを改めて見ると,苦笑させられます。ある有名な都市伝説の「原作」なのかもしれません。
「人生モンタージュ」
 男は,「映画のような人生を」と願ったが…
 いったいどこから「映画」なのでしょうか? もしかすると,最初から男の「人生」は,「映画」だったのかもしれません。映画のような人生を送る男の映画のような人生を送る映画のような人生を送る……入れ子構造というか,エンドレスというか,この手の作品は好きです。
「天衣無縫」
 ある無学な男は,朝起きると,フランス語が話せるようになっていた…
 主人公が「どのようにして」そうなるのか,というのは途中で見当がつきますが,問題は「なぜ」と,その「結末」。その両者をむすびつけてのラストは,一瞬「え?」と思いましたが,すぐに「なるほど」と納得できました。鮮やかの一言です。
「休日の男」
 男が会社に行きたがらない理由は…
 あらゆるものを貪欲に飲み込み,商品化すること…それが資本主義社会の宿命なのかもしれません。かつて畏敬の念をもたれたであろう「能力」もまた同様なのでしょう。
「死者のダンス」
 新入生が,先輩たちに連れて行かれた店は…
 少女のイニシエーションを,グロテスクなSF的舞台設定で描いた作品…なのでしょうかね? イメージとしてはおもしろいのですが,ストーリィはいまひとつピンと来ません。
「陰謀者の群れ」
 不運が続く男は,その“理由”を思いつき…
 フィクションの素材としては「ありがち」と思いつつ,現実的に「シャレにならんな」と思ってしまうところが,現代的な恐怖の形なのでしょうね。
「次元断層」
 彼は,行きつけの店で見知らぬ男から声をかけられ…
 今でこそSFでは,定番ともいえるシチュエーションですが,この時代には新鮮だったのかもしれません。見知らぬ男が,自分のことを事細かに知っているという不気味さと,ラストの皮肉なオチが巧いですね。
「忍びよる恐怖」
 ロサンゼルスに始まった異変は,またたく間にアメリカ全土を覆い…
 う〜む…なにかのメタファなのでしょうか? それともナンセンスSFなのでしょうか? そこらへんはよくわかりませんが,「論文」(あるいはレポート)風の体裁が,奇妙な味を醸し出しています。
「死の宇宙船」
 人跡未踏の惑星で,3人の宇宙飛行士が見つけたものとは…
 主人公たちが見つけた,じつに意外な「あるもの」をめぐるミステリ,さらにそれがもたらすアイデンティティ危機と,彼らの間の軋轢,そして惑星脱出の緊迫感…ラストは古典的なものなのですが,ストーリィ・テリングが巧みで,ぐいぐいと読み進めていけます。本集中,一番楽しめました。
「種子まく男」
 ひとりの男が,シルマー街に引っ越してきてから…
 岡崎二郎の短編に似たようなタイトル(「種を蒔く男」)の作品がありますが,それとはまったく逆のベクトルのブラックなお話。「いわれなき悪意」というのは,やはり背筋が冷たくなるものがありますね。

04/10/31読了

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