真刈信二・赤名修『勇午』1〜3巻 講談社 1994・1995年

 腕利きの交渉人(ネゴシエータ)・別府勇午。今回の依頼は,パキスタンで武装ゲリラによって拉致された日本商社マンの救出。ゲリラの頭目は,“地獄の勇者”と呼ばれるユスフ・アリ・メサ。パキスタンの灼熱の山岳地帯へ向かう勇午。だが身代金はゲリラの活動資金となるということで,政府は人質もろともゲリラを殲滅することを決定,軍隊を派遣する。はたして勇午は人質を救い出せるのか!

 原作者は,わたしのお気に入りのコミック『オフィス北極星』と同じ方です。たしかどなたかの掲示板で,この作品を薦めるどなたかの書き込みがあったように思います(「どなたか」ばっかり・・・うう・・・相変わらずの鳥頭(T_T))。
 で,よく行く本屋でずらりと並んでいたので,「とりあえず第1巻を・・」ということで買ってきたのですが,1巻を読みおわって,「う,これはおもしろい!」となり,さっそくこの「パキスタン編」が完結する3巻まで買い足しました(4巻を読んでないので,完結しているかどうかは確証がないのですが(^^ゞ)。

 さて物語(このエピソード)は,主人公・勇午が,さまざまな困難―灼熱の大自然,ゲリラによる拷問,政府軍の攻撃などなど―を乗り切り,拉致された日本人を救い出すまでがメイン・ストーリィとなります。機転と信義を武器にプロとして困難を克服するという,勇午の基本的な設定は,『北極星』の主人公・ゴーと近しいものを感じますが,舞台が舞台だけに冒険的な色彩がより強くなっています,というより,その「冒険」こそが本作品の主眼なのでしょうが(笑)。
 またこの作品の魅力は,主人公の活躍とともに,彼を取り巻く多彩なキャラクタに負うところも大きいでしょう。小説であれマンガであり,「冒険もの」の魅力というのは,波瀾万丈な危機一髪的ストーリィもありますが,それとともに,その冒険を通じて果たされる登場人物たちの「再生」「復活」といった「通過儀礼」的な側面もまた,そのひとつなのではないかと思います(もちろん,すべての「冒険もの」がそうでなければならない,という意味ではありません)。
 この作品では,たとえば依頼人の岩瀬繭子(拉致された商社マンの娘),はじめのうちは内気で臆病な少女といった感じですが,単身苦闘する勇午を知ることで,身代金を持って,みずからパキスタンへ赴く気丈な女性へと脱皮していきます(ほんとは,もうちょっと描写がほしいところですが・・・)。彼女が,金を運ぶ役のハジ・ラフマニに,「あなたに安全と神の恩恵があらんことを」と祈るシーンは,感動的ですらあります。
 同様にハジ・ラフマニ,かつてユスフ・アリ・メサによって卑怯者として頭目の地位を追われた彼は,勇午を援助することで,みずからの名誉を回復せんとします(この「名誉」という問題も,『北極星』と共通するものがあり,この原作者のメイン・テーマなのかもしれません)。さらにユスフ・アリ・メサ,当初は暴虐冷酷,極悪非道なゲリラの頭目といった感じですが,勇午との「交渉」を通じて,真なる「勇者」へと変身していきます。ラストの「おれはおまえを遣わした神に感謝する」とアリが勇午に告げるシーンは,このハードな,それでいてヒューマンな物語のエンディングにふさわしいセリフではないかと思います(このほか「主人公を守護する女性」という設定も興味深いのですが,これはまたいずれかの機会に・・・)。
 こういった,主人公をサポートする個性豊かな脇役たち,そして主人公との交流を通じて変貌を遂げる脇役たち,そんな彼らが創り出す魅力的な「シーン」「物語」・・・・・この原作者の作品は,ちょっと目が離せなくなりました。

 あと,付け足しのようで申し訳ないのですが,作画者・赤名修のタッチも,多少不安定な部分がないわけではありませんが,迫力があっていいですね。

98/09/21

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