真刈信二・中山昌亮『オフィス北極星』全10巻 講談社
 時田強士・通称「ゴー」は,10年間つとめていた日本の保険会社を退職。ニューヨークで単身,企業のリスクマネージメント会社「オフィス・ノーススター(北極星)」を開く。アメリカでは,日本企業の躍進が喧伝されるかげで,さまざまな軋轢と衝突が繰り広げられている。ゴーは,日本企業の訴訟社会アメリカに対する無理解と,日本的企業経営の限界,両者に横たわる文化的溝にその原因を見いだし,ふりかかるさまざまな難題を,ユーモアとトリッキーな戦略,しかし誠実で真摯なハートで解決していきます。

 このコミックのおもしろさはふたつ。ひとつは登場人物がたいへん魅力的なこと。主人公のゴーはもちろん,有能な女性弁護士で,ゴーに恋心を抱くバーバラ,オフィスの初代パートナーで,プエブロインディアンの血をひくサム,ダンサーにして占い師,迷っているときのゴーに神秘的でかつ的確な予言を与えるシャー。二代目パートナー,ベジタリアンでレスビアンで,ちょっとずぼらなゴーを支える有能なふたり組キャサリンとアイリス。
 そしてそれぞれの事件の渦中で関わる人々。「CASEU 砂の臭い」の一匹狼の弁護士ジミー,「CASEV ロバの耳」の天才コンピュータ少年ミック,「CASEW ドクター・アラモ」の町医者ドクター・ノグチ,「CASEX ベジタリアンズ」「CASEY 2つのドガ」に登場する大富豪クラヴィス・ホイットニーなど,一癖もふた癖もありながら,苦悩し,焦り,傷つきながらも,「現代のアメリカ」を持てる力をもって生き抜こうとしている人々。そんな彼らをゴーは,ときに励まし,ときに厳しく接しながら,トラブルを解決していきます。読んでいて生きる勇気を与えてくれるキャラクターたちです。

 そしてもうひとつは,ゴーがトラブルを解決していくプロセス。たとえば「CASEY 2つのドガ」では,公開が間近に迫ったクラヴィス所蔵のドガの作品「ハンカチを手首に巻いた踊り子」と同一のものが,かつて勤めていた保険会社の社長室に飾られていることをゴーが指摘。つまりどちらかが本物でどちらかが偽物。天下のホイットニー家のコレクションに偽物が混じっていれば,それはスキャンダルにさえ発展する危険がある。クラヴィスから依頼を受けたゴーは,2つのドガを買い取ってしまえばいいと提案。しかしバブル時代に購入した保険会社のドガはあまりに高額。相場からかけ離れた購入は不正取引と認定されてしまう。ゴーは会社がバブル時代に手を出し,焦げ付いている不動産に目をつけ・・・。
 あんまり書くと,読んでない方の楽しみを奪ってしまいますので,この辺にしておきますが,ゴーの戦略は,相互に矛盾し,両立し得ないと思えるような問題を,盲点をつくような方法で解決していったり,ほとんど敗北が決定的な裁判を,トリッキィな方法で一発逆転,勝利するといったもので,一種ミステリを読んでいるようなおもしろさを兼ね備えています。

 掲載は『コミック・モーニング』ですが,毎週というわけではなく,「CASE」ごとに7週間とか10週間とか,まとめて連載されます。でもコミックがでてからいっぺんに読んだ方が,前後の脈絡がよく理解できて,より楽しめるのではないかと思います。


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