岡野玲子『妖魅変成夜話』1巻 平凡社 1999年

 生まれたとき,瑞雲がたなびいていたという李成潭は,勉学に励み,科挙に合格,都・長安で官人となる。ところが「君子,怪力乱神を語らず」という孔子の教えにもかかわらず,配属された部署は,龍玉将軍率いる「双龍部隊」。任務は神仙を捕らえることだという…

 『陰陽師』で,妖艶な「ジャパネスク・オカルト・ファンタジィ」をものしたこの作者,本編では中国唐代を舞台にして,コミカルなチャイニーズ・ファンタジィを描いています。
 主人公は一応(笑)李成潭。吉祥の元に生まれながら,どうも異形のものに好かれる体質らしく,王玉春という女性の幽霊に取り憑かれるわ,化け狐白葉にはなつかれるわ,と不運続き。おまけに念願の宮廷官人になれたのは良かったものの,配属されたのは「双龍部隊」なる怪しげな極秘セクション。ロン毛で美貌の将軍龍玉の下で,超常現象を記録せよといわれ,結局,異形とは離れられない運命にあります(笑)
 で,この成潭君,じつに俗っぽいところが良いですね。王玉春や白葉に取り憑かれたのも,元はといえば彼のスケベ心に端を発しているだけに,自業自得というか,あまり同情できません(笑) また「化け物はイヤだ!」とか言いながらも,そこに「美女30人」がいると聞けば,率先して化け物屋敷へと侵入していくところは,じつに健康的です(笑)

 一方,成潭の上司で,もしかすると真の主人公龍玉将軍,見目麗しいクールな人物なのですが,だいたいこの手のキャラの定番で,一癖も二癖もありそうです。成潭に取り憑いている狐・白葉とも,以前から顔見知りの気配ですし,成潭を自分の部署に入れたのも,なにか訳アリの様子。五つ子の部下五雲竜もどうやら人にあらざるモノのようです。成潭君,この性格の悪い(笑)上司と,その直属の部下(?)で双子の孺子寧々姚々にいいようにからかわれます。
 とくに,旅人を喰らう呂伯邸の調査を命じられた成潭,なぜか王玉春,白葉までついてきて,その一行はさながら水戸黄門(笑),自分を黄門様になぞらえた成潭ですが,最後のおいしいところは将軍に持っていかれ,「しまった,おれはうっかり八兵衛だったか」と嘆くところは大笑いしちゃいました。

 そのほか,後宮に出没する妖怪調査を命じられ,「それって,のぞきじゃあ…」という成潭に対し,将軍,「まあ 平たくいえばそんなところだ」と,しれっと答えたり,自分の「双龍部隊」を「MISSION IMPOSSIBLE」にたとえるところとか,小ネタギャグ満載のじつに楽しい作品になっています。まぁ,安倍晴明源博雅との関係を,もうちょっとコミカルにした感じですね(あるいは「いじめっ子」と「いじめられっ子」の関係というか(笑))。

 ところでこの本の版元は平凡社スコラから出ていたのを復刊しているようですが,これまであまりコミックには縁の無かった出版社なのでちょっと意外ですね。で,巻末に,その平凡社から出ている東洋文庫の宣伝が載っていますが,その惹句がなんだか妙に軟弱(笑) これもまた世の流れといったところなのでしょうか?

02/03/08

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