高橋葉介『宵闇通りのブン』朝日ソノラマ 1999年

 この作者の「初期作品」と呼べるのは,このあたりまででしょうね。この文庫版「ヨウスケの奇妙な世界」の次回配本は『猫夫人』のようですから・・・

 さて表題作は,宵闇通りに住む少女ブンを主人公にした連作短編集です。前巻『ライヤー教授の午後』の主人公がミリアムという少年であったのと対になるのかもしれません。
 で,こんなこと書くと性差別主義者と言われるかもしれませんが^^;;,少年より少女の方が,はるかに辛辣で醒めているようです。というのも,各編にはさまざまな奇妙で愉快,それでいてなんとも哀しい人々(男たち)が出てきますが,彼らに対するブンの評価は,いつも同じです。つまり,
「ばっかみたい」
です^^;;
 たとえば,「ファルコンのパイプ」には,自分でしゃべる腹話術の人形が登場しますが,気の弱い腹話術師をふった女に罵詈雑言を投げつけることを生きがい(?)としていて,最後にはその女によってバラバラにされてしまいます。あるいはまた「フープァー空をゆく」,宙を浮くことができる特技(?)を持つフープァー,興行師の甘言にのせられて(文字通り(笑))すっかり舞い上がり,最後には破裂してしまいます。ブンは,その残った骨を使って,前々から作っていたオブジェを完成させますが,そのタイトルは「何の役にも立たなかった男の肖像」。それから,この連作でわたしが一番好きなエピソード「おじさんの手紙」は,平凡で静かな生活が好きなのに,「冒険家」を愛する妻のために,(これまた文字通り)我が身を削る男のお話です。
 まぁ,たしかにバカと言われてしまえば,返す言葉のない男たちばかりです。ですから,ブンの「ばっかみたい」という言葉に,(わたしも含めて)男性読者は苦笑を浮かべるのでしょうが,その苦笑にはどこか引きつったものがあるように思います。要するに,世の男どもは,この作品ほど極端ではないにしろ,多かれ少なかれ,同じような「バカ」な部分を持っているのではないでしょうか?
 もっとも,ブンがパパを待つ間に独裁者が生まれ,戦争が始まり,終わってしまうという「パパを待つ」での,ブンの「バーカ」の対象は,人間全部なのかもしれません。

 この作品集にはもう2編,単独エピソードが収録されています。「発掘」は,殺した妻を埋めた場所で化石が発見されてしまい・・・というお話です。松本清張のミステリで,考古学者が死体を埋めた場所でやはり貴重な遺跡が発見されてしまうという皮肉な作品がありましたが,こちらのオチはもっと極端にエスカレートさせていて,ニヤリとさせられます。もう1編の「たった一人の日本人」は,筒井康隆風のテイストをもったハチャメチャ作品です。

98/06/01

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