文月今日子『わらって! 姫子』講談社 1977年
文月今日子『フリージアの恋』講談社 1973年

 『銀杏物語』の感想文で,「『わらって! 姫子』がほしいなぁ」と書いたら,よくメールをくださる織里さんが,「古本屋にありました」ということで,上の2冊を送ってくださいました。うっうっ,このせちがらい世の中で,なんと奇特な方なのでしょう・・・。織里さん,多謝!

『わらって! 姫子』
 最近の文月作品は読んでいないので知りませんが,この作者お得意の「大家族コメディ」,楽しい作品です。物事に動じない(ボーっとしている)長男・金太郎19歳をあたまに,プレイボーイの,次男・銀次郎17歳,そして二卵生双生児・王三郎と姫子,ともに14歳。父親は大工の清さん。でもって母親は,女優の扇寿子。10年前,寿子のラブシーンに我慢ができず,ふたりは別居。といっても橋を挟んだ1丁目と2丁目。頑固ものの意地の張り合い,似たもの夫婦です(笑)。この作者の設定する「大家族」は,ひと昔前のホームドラマにあったような,「みんな,助け合って生きていくのよ!」的な偽善的な雰囲気はなく,ひとひねり加えている上に,どこまでもコミカルで,そしてどこかドライです。とくに4人の子どもたち。こんな環境で,ぐれもせず,いじけもせず,だからといって“けなげ”なんてのとはほど遠い。したたかでクール,なんとも力強いです(一番デリケートなのは父親の清さんだったりします)。そう,この作品の,そしてひいては文月作品の魅力は,画面いっぱいに走り回り,飛び回る子どもたちの悪ガキぶりではないかと思います。とくに「第4話 クリスマスの天使」に出てくる,王三郎がボランティアをしている孤児院「天使園」の“天使”たち。手伝いにいった姫子たちを待ち受けていたのは,いたずらの嵐。“孤児”とか“施設”とかがもつ暗いイメージなどかけらもない,姫子たちを翻弄する,一筋縄ではいかない小悪魔どもです。そんな子どもたちのスラプスティックの合間に,ホロリ,とするシーンも出てきます。最終話,お正月で酔っぱらった清さんと寿子が,思い出を語り合うシーンなんてのは,コミカルでいながら,なんとも情緒があふれるシーンです。もう古本屋でしか手に入らないと思いますが,関心のある方は,ぜひご一読を。
『フリージアの恋』
 こちらは,たしか文月今日子のデビュー作をおさめた,最初のコミックではないかと思います。奥付を見たら1974年,もう四半世紀も前ですよ(年とったはずだ(笑))。「フリージアの恋」「トロイメライ」「初恋はトマトの味」「子ネコちゃんのボス」「ローズ=マダーのすてきな恋人」「愛のスイートラック」の6編よりなる短編集です。このなかでのわたしのお気に入りは「ローズ=マダー・・・」です。例によって,テリーとリリーといういたずら好きのワンパク小僧たちが出てきます(「ワンパク」なんて死語に近いですね,いまや)。ローズ=マダーというのは御年66歳のメイドさん。彼女が病気になってしまい,テリーとリリーは,なんとか彼女を元気づけようと,走り回ります。ちょっと話が冗長になっている部分がないわけではありませんが,彼らの悪ガキぶりと,それゆえの純情さみたいのが,なんとも楽しい作品です。良質のコメディ映画を見ているような気分にさせてくれます。

97/08/29

go back to "Comic's Room"