高階良子『地獄でメスがひかる』講談社漫画文庫 1999年
高階良子『はるかなるレムリアより』講談社漫画文庫 1999年

 全部で5巻出るらしい「高階良子傑作選」の1・2巻です。これらに収録された計6編は,いずれも1970年代中頃の作品で,絵柄の古さは否めないものの,ストーリィ的には,ときにファンタジックに,ときにミステリアスに,ときにヘヴィに,ときにホラーに,と,なかなか練られていて楽しめます。この作者のストーリィ・テラーとしての資質を改めて感じ入りました。

「地獄でメスがひかる」
 醜い容貌のため,家族から疎まれ,入水自殺しようとしたひろみを救ったのは,ひとりの天才的医師であった。彼の手術により美少女として生まれ変わった彼女を待っていたものは…
 いわば,少女マンガ版「フランケンシュタインの怪物」ですが,この作品の場合,天才的医師が作り上げた人工生命は,醜いモンスタではなく,美しい少女です。しかしその美しさが彼女を苛み,苦しめます。美しい肉体と暗い過去との狭間で苦悩する主人公の姿を,看護婦の嫉妬心をうまく絡ませながら,巧みに描いています。またみずからの過去の醜い躰を切り刻み,焼いてしまうシーンは,彼女の運命が崩壊へと進むオープニングとして,ショッキングであり,また展開としてもスムーズで効果的と言えましょう。
「化石の島」
 天才的レーサー・聖光太郎。雑誌記者の美保は,取材をきっかけに彼と知り合い,愛をはぐくむが,彼の出生にはおぞましい秘密が隠されていた…
 毎晩訪れる男性は,じつは三輪山の蛇神であったという神話を思い起こさせる作品です。とても『なかよし』に掲載されたとは思えない,いまだったら立派な“レディス・コミック”として通用しそうな怪奇愛憎物語です(嫁と姑の確執もさりげなく挿入されてますし(笑))。また光太郎と,彼を襲うチンピラとの格闘シーンとか,かなりハードですよ。
「血の花の伝説」
 満月の夜,亡父の遺した温室で,彼は不思議な夢を見た。それが地獄へと通じる扉だとも知らずに…
 サボテンに感情がある,というネタは,当時としてはおそらく目新しかったのでしょうね。それを導入しながら,じつにオーソドックスな植物怪奇譚に仕上げています。あるいは,「人でなしの恋」のサボテン・ヴァージョンとでも言いますか・・・
「ばらのためいき」
 広大な,しかし閉ざされた邸宅で暮らす少女と出会った矢沢は,彼女を外へ連れ出そうとするが…
 母親と娘との異常で歪んだ愛憎の末のペシミスティックなエンディングが,山岸凉子の作品を連想させます。脇役ながら,女主人に忠誠を誓う池村というキャラクタの配置が,不気味さを盛り上げているように思います。
「はるかなるレムリアより」
 作者自身,「とても変わった話」とコメントする怪作です。感想文はこちら
「タランチュラのくちづけ」
 タランチュラの形をした胸の痣に誘われるようにして,兄たちとともにアマゾンを訪れた蘭。そこで彼女を待っていたものは,太古からの秘められた謎の一族だった…
 原作付きとはいえ,力の入った伝奇作品となっています。主人公が,女性であることを隠して探検隊に参加するというシチュエーションや,彼女の周囲に起こるさまざまな怪異,謎めいた人物たちを小出しに描くところは,物語を押し進める強力な牽引力となっており,ぐいぐいと読んでいけます。そこに,ダイヤモンド鉱山をめぐる欲望や,血のつながらない兄の,主人公への愛,タランチュラの王ロワに対する侍女の愛憎などを上手に織り込むことで,物語に膨らみをもたせるとともに,ストーリィ展開にメリハリをつけています。
 ところで,「タランチュラ」というと,わたしの世代としては,どうしても『ウルトラQ』を思い出してしまいますね(笑)。

98/07/05

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