曽田正人『昴 スバル』2巻 小学館 2000年

 「あたしはやっぱり踊るのが好き!!」――そう自覚したすばるは,プロのダンサーへの道を歩み始める。しかし,「コール・ド・バレエ(群舞)」の一員に選ばれた彼女は,振り付け師から罵倒される。「一週間後に考え直すわ!」と叫ぶ昴。彼女の真の才能が徐々に目覚め始める・・・

 1巻の感想文でも書きましたが,「バレエ・マンガ」,「ダンス・マンガ」といえば,少女マンガに数々の名作がありますし,個人的にも槇村さとる『ダンシング・ゼネレーション』『N・Yバード』は,長いこと書棚にならんでいるお気に入りの作品のひとつです。
 しかし,本作品を読んでみて,改めてそれらの作品を見ると,やはり少女マンガなのだな,と思いを強くしました。どういうことかというと,肉体の描き方がきれいなのです。あるいはきれいすぎる,とも言えるかもしれません。もちろん,それはそれで十分魅力的なのですが,むきだしの肉体が持つ猥雑さ,生々しさみたいなものが,抜け落ちているところがあります。
 ダンスというのは,言うまでもなく肉体の動きです。たとえどんなに優雅な動きであろうと,そこには,肉体から発する汗,激しい息づかい,皮膚の紅潮,肉体の酷使がもたらす興奮などがともないます。それはさまざまなスポーツにおいても見られるものと同質なものです。本作品では,ダンスの持つフィジカルな側面を,より鮮明に描き出しているように思います。
 これは,少女マンガと少年マンガが培ってきた肉体の描き方の方法の違いに由来するのかもしれません。少女マンガにおいてなによりも求められるのは「美しさ」だと思います。一方,さまざまなスポーツ・マンガ,格闘マンガを主要なジャンルとして発展してきた少年マンガでは,肉体の動きをより躍動感をもって描き出す描法が求められます(それは,単に肉体そのものの描法だけでなく,動きを示す効果線やアングルの設定などを含みます)。
 1巻の感想文で,本作品が,少年マンガと少女マンガとの間の垣根が低くなった結果であると書きました。たしかにバレエを描く対象として取り上げた点においてはそうなのかもしれませんが,それに対するアプローチの手法は,やはり両者の間で違い―「伝統」とも呼べるような違い―があるのでしょう。

 さて,本巻では,プロのダンサーを目指し始めたすばるが,はじめて「群舞」を経験します。これまで,もっぱらひとりで踊ってきた彼女が,「集団舞踏」をどのように克服していくか,というところがストーリィの焦点になっています。こういった「形」と「才能」とのせめぎ合い,というパターンは,「天才」を主人公にした物語では,しばしば描かれるモチーフでありますが,「形」を取り込みながら,その「形」を超越していく,という展開は,きわめてオーソドックスなものと言えましょう。ですが,上に書いたような,スポーツ・マンガの伝統を引く本作品において描き出されたそのシーンは,バトル・シーンとさえ見まごうような迫力あるものになっています。
 さらに,すばるに踊りを教えた“キャバレーのおばちゃん”こと日比野五十鈴が,日本人ではじめて,フランスのオペラ座のオーディンション受験資格を得た伝説のダンサーであったことが明らかにされます。すばるは,五十鈴が果たし得なかった,バレエの最高峰オペラ座への道を歩み始めるのでしょうか? ここにいたって,この物語に,ひとつの方向性が与えられたと言えましょう(それにしても,「祖母が太っていたから」という理由で失格になるというのも,なんともすさまじい世界ですね)。このほか,死んだ弟かずまをすばるに連想させる青年の登場など,物語は,しだいに広がりを見せ始めています。さてさて・・・

00/09/04

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