とり・みき『石神伝説』1巻 文芸春秋 1997年

 地下鉄工事中,東京の地下で発見された謎の巨石。それを破壊したことが,すべての始まりだった。福岡で,出雲で,岡山で,そして奈良で,古代に征服され,虐げられた人々の怨念が現代に甦る。その復活の背後には,白鳥と名のる少年の影が・・・。そして怨念の復活を阻止しようとする物部氏の裔・石上の闘い。東邦新聞記者・桂木真理は,全国で発生する奇怪な事件を追う。が,彼女自身も古代の怨念と深く結びついており・・・・。

 とり・みきの作品には,『遠くへいきたい』みたいな,「物語」を解体し,無化していく志向と,『山の音』に代表されるような「物語」志向の2種類があるように思います。この作品は,明らかに後者に属するものです。また作品の傾向も『山の音』と同様に伝奇ものであります。福岡筑紫の石人石馬,出雲の八股の大蛇,岡山の鬼の城伝説,奈良の用途不明の石造物群・・・・。この作者,古代史や神話,伝説をネタとするの好きなようです。う〜む,ただなぁ・・・・,古代の被征服民の怨念が現代に甦る,というネタは,もういい加減使い古されているという印象は免れませんねぇ。まあ,確かに『古事記』や『日本書紀』というのは,大和朝廷に都合がいいように書かれた「歴史書」ですから(あらゆる「歴史」は勝者のものである),いいつくろった表現の背後に,血塗られた歴史があったことは確かなんでしょうが・・・。そこらへんが,作家さんの想像力を刺激するのでしょう。ただ個人的には,少々,食傷気味なところがあります,正直なところ。

 で,あとは,それを「どう見せるか?」というところに,コミック作品のおもしろさがかかってくるのだと思いますが,そこらへん,この作者の描き方というのは,やはり巧いですね。短いシーンをいくつも積み重ねながらストーリー展開にリズムをつけたり,また,本来動きのあるシーンの一瞬を静止画像風に描くところなどは,この作者のお得意のパターンなのでしょう。けっこうサクサクと読んでいけます。また自衛隊の描写など,細部にこだわるところも,作者のマニアックな性格がよく出ているように思います(そんなところは,ゆうきまさみと共通するところがあり,ふたりが仲のいい友人であることもうなづけます)。ところで,本巻最後の章で,多少ギャグが入っているのは,「もうひとりのとり・みき」の血がうずきはじめているのでしょうか?(笑)

 さて,物語は,東京・福岡・出雲・奈良へと転々と舞台を変え,甦る古代の怨念も,しだいに強力になってきています。今後の展開は,白鳥の狙いは何なのか? 対抗する物部の末裔とのバトルは,どのよな決着を迎えるのか? そして桂木真理の運命は? といったところでしょうか・・・・。

 ちなみに,タイトルは「いしがみ」ではなく「せきしん」だそうです。

97/12/19

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