楠桂『鬼切丸』18巻 小学館 2000年

 3編のエピソードを収録しています。

「電脳鬼啖の章」
 ネット・アイドルのクラスメイト雫に,俊美が嫉妬心から“呪いのメール”を送ったのがはじまりだった…
 この作者がホームページを開いたのを知ったときから,「いつかこのネタがでるんじゃないだろうか?」と思っていたのですが,やはり出ました(笑)。
 『リアルヘヴンにようこそ』(牧野修)の感想文にも書いたことですが,「呪い」を一種の「コミュニケーション」ととらえた場合,コミュニケーション手段の変化は,「呪い」のあり様にも変化をもたらすと言えるでしょう(今では古典になってしまった「不幸の手紙」だって,郵便システムの整備が前提となるわけですから・・・)。ですから,インターネットをモチーフとしたホラーは,これから増えていくのではないかと予想されますが,そこに「鬼」という伝統的な怪物を取り入れたところが,この作品の特色と言えましょう。またネット上の「呪い」が,じつは「ヴァーチャル・リアリティ」なのでは? ということを匂わせるラストもおもしろいですね。ところで,PCのディスプレイから鬼が出てくるシーン,映画版『リング』のクライマクス・シーンを連想させますね^^;;
「鬼願の章」
 好きな男の子が転校しないように…そう祈願しにいった千恵理は,崖から落ちて植物人間になった…
 無駄の部分を省いた「単純さ」というのは,ときに強い「力」になると思います(もっとも「転けた」ときは被害も大きいですが^^;;)。それゆえ,子供の「単純さ」というのは,大人が失ってしまったパワーを発することがあるのかもしれません。たとえ肉体が18歳になったとしても,「10歳の千恵理」が願ったこと―葉月くんが転校しないように―は,鬼になるほどの力を秘めていたのでしょう。しかし,それを包み込むような大人の願い―千恵理ちゃんを助けて!―も,けっして捨てたものではなく,それに負けないくらいの「力」を持っているのだと思います。
「鬼宿りの章」
 根津帆波は一度死んだ。そしてもう一度生まれた…鬼となって…
 好きですねぇ・・・こうゆうミステリ・タッチのエピソード。前半の,メイン・キャラクタのひとりが鬼の生まれた原因を語るといった描き方も好きですが,それ以上に,それがツイストして“真の原因”が明らかになる後半もいいです。一種の叙述ミステリですね。またホラーとしても,天志(たかし)が,墜死した帆波の手を握って,「すげえうれしい!! 彼女がおれにさわってくれた」と笑うシーンは鬼気迫るものがありますし,さらに天志の躰から,「新しい」帆波が抜け出てくるところも,エロチックな雰囲気もあって,不気味さを増幅しているように思います(作者も気に入っているのか,カヴァで再利用してますし^^;;)。この巻で一番のお気に入りです。

00/01/22

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