真刈信二・中山昌亮『オフィス北極星』9巻 講談社 1998年

 訴訟社会アメリカで,日本企業のリスクマネージメントをつとめる“ゴー”こと時田強士の活躍を描いた本シリーズも9巻目です(詳しい紹介はこちら)。今回は,麻薬犯罪に絡む難題に直面したゴーが,社会正義と友情との板挟みになり,悩みます。

 まずこの巻で目についたのはカバーの表紙です。これまでどちらかというと原色を多用したにぎやかな表紙が多かったのですが,この巻の表紙はモノトーンに近い渋いタッチです。雨上がりを思わせる灰色の橋を,こちらに向けて歩いてくるゴー。黒い背広の上下に黒いネクタイ,かすかに笑みを浮かべたその姿は,けっこうさまになっています。ところが持っているアタッシュケースが,緑の唐草文様(爆!)
 で,表紙をめくると,一見,表紙とほとんど同じような中扉,じつはこちらのゴーは目を閉じています。う〜む,S・キングの『ミザリー』の表紙みたいで,なかなか芸が細かい(笑)。アタッシュケースといい,こういった小技といい,そのセンスはなんとも愉快ですね。

 さて,前巻で有能なコンビ秘書キャサリン&アイリスがヘッドハンティングで退職し,ゴーの心の支えだった弁護士バーバラも去り(うう,なんであんなおっさんとひっついたんやぁ! バーバラ! カンバァァック!(号泣),ゴーが新たに雇った秘書はマリア,食後に必ず2時間の午睡(シェスタ)をとる彼女は,南米から来たラテンのノリ。ビジネスおんちながら,危険を察知すると,鼻がピクピク動く危険予知能力を持っていて,ゴーはそんなところに惚れてしまいます。
 それにしてもゴーの秘書は,アメリカ先住民の血を引く初代秘書のサム,レスビアンコンビの2代目秘書のキャサリン&アイリス,で3代目は南米からの出稼ぎ移民と,アメリカ社会でのマイノリティばかりですね。日本人も,経済力はどうであれ,民族的にはやはりマイノリティでしょうから,原作者も意識的に設定しているのかも知れません。

 そんなマリアに戸惑いながらも,ようやく会社が軌道に乗ってきたゴーは,わずかな契約書のサインミスで,警察に逮捕されてしまいます。警察は司法取引をもちかけますが,そこに不自然な作為を感じ取った彼は,それを拒否,トラブルの元となった契約相手・極東投資顧問会社に絡む不正の存在を推測します。はたして,調査の結果,会社の新ディーラー・エディを通じて,麻薬取引のマネーロンダリングに会社の投資が利用されていたことが判明します。ゴーは,マリアにぞっこんの弁護士カルロスとともに,会社の新支社長・オカダに警察への報告を勧告します。しかしオカダは報告を拒否,ゴーは麻薬取引幇助の罪で被告席に立つことに・・・。

 今回もサスペンスフルな展開が楽しめるエピソードです。新登場のマリアや弁護士カルロスも,これまでのキャラクタとはひと味ふた味違っているところも新鮮味があります(エキセントリックなところは,これまでの登場人物と共通しますが(笑))。また親友との契約であるがゆえに,会社に不利な証言ができず,麻薬取引幇助の冤罪をあえてかぶろうとするゴーの姿は,ハードでシビアな,それこそ生き馬の目を抜くようなアメリカのビジネス社会で,信義を守り通そうとするハードボイルド小説の主人公を思わせます。ですから,安定感と新展開,といった感じでおもしろいことはおもしろいのですが,ただ,結末がちょっと感心できませんねぇ。
 これまで,窮地に陥ったゴーや彼の友人たちが,あの手この手で状況を打開していく姿がなんとも魅力的だった本シリーズでは,トリッキーな「大技」はしばしば見られても,今回のような「荒技」はなかったように思います。ゴーが,盲点を突いてトラブルを解決していくミステリにも似た展開と結末の爽快感が好きだっただけに,今回の「荒技」は少々鼻白んでしまうところが,正直ありますねぇ。う〜む,残念。次回のエピソードに期待しましょう(バーバラ! カンバァァック!<しつこい)。

98/04/19

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