たがみよしひさ『NIGHT ADULTCHILDREN』1巻 学研 1998年

 『NERVOUS BREAKDOWN』で探偵たちの活躍(?)を描いたたがみよしひさの新シリーズは,一転,“泥棒”たちが主役です。

 探偵と泥棒というと,立場は正反対のように思えますが,“アルセーヌ・ルパン”に代表されるように,ミステリでは常連の職業(?)ですし,泥棒が,厳重な警備の裏をかき,あるいは強行突破して,財宝や機密を手に入れようとするのは,名探偵が,複雑怪奇な謎に覆われた事件の真相を解き明かすのと,ベクトルこそ違え,アプローチとしてはよく似ているのではないかと思います。

 さて登場人物はというと・・・。
 まずは掏摸師の「風(プー)」こと田中風太郎。6年前,“仕事”の途中で恋人(?)を失って以来(「Taraget.6 As black as Jet」),しばらく足を洗っていたらしいのですが,なぜか復活。指先だけではなく,おつむもなかなか冴えているようで,ブレーン的存在です。
 そして美人局やら結婚詐欺やらがお得意の延乗寺聖華&アンデスのコンビ。聖華は派手なおねーちゃんですが,丸山広子という,なんとも地味な本名が笑えます。一方アンデスは,無口で腕力専門のマッチョマンです。聖華のいいなりになっているようでいて,「Target.3 哀しみのレッドアイ」では,いわくつきの宝石・レッドアイを聖華が盗もうとするのを阻止します。
 おつぎは黒沼東吾,“ブラック・スパイダー”を自称する金庫破りですが,みんなからは“セアカ・ゴケグモ”と呼ばれて,いじけてます(笑)。腕はなかなかのものらしいですが,なぜか毎回骨折してます。一見ふてぶてしく見えますが,けっこうナイーヴな性格のようです。
 坂田和也はおたくで下着泥棒(笑)ですが,機械類にメチャ強いハッカーで,風たちが盗みに入ろうとする場所の警戒状況などを,あっというまに盗み出してしまいます。
 でもって,彼らがたむろする喫茶店“night”のヒゲのマスタ・平井平吉は,盗品の故買屋という裏の顔を持ちます。店の地下にある秘密の地下蔵で,夜な夜な壺に頬ずりする美術品フェチです(笑)(「Target1.帰ってきたカッパライ」)。ほのぼのした顔ですが,稼業が稼業だけに,こわもてたちとも当然つきあいがあり,あわやという目にも遭ったりします(「Target.5 失踪(きえ)た平井平吉(マスター)」)。

 対する警察側は,石川二右衛門警部補。お約束通り,まわりからは「五右衛門」と呼ばれてます。顔が三輪青午なので(笑),頭を動かす前に,身体が動くタイプのようです。それと,今のところレギュラになるかどうかは不明ですが,『なあばす』に出てきた警視庁捜査一課の岩切課長が,ちょっとだけ顔を出してます(「Target.5 失踪た平井平吉」)。ちなみに岩切課長が髪と髭を黒く染めると,マスタになります(笑)。

 こんな一筋縄ではいかない連中が,あの手この手で“お宝”を盗み出そうとするわけですが,「Target.2 消えた現金(げんなま)」「Target.5 失踪た平井平吉」などのように,風たちが探偵的な役回りもするミステリ仕立ての作品もありますので,いろいろな趣向で楽しませてくれそうです(ただ,作者らしい人物が,“night”で「オレにはサイノーがない!」と脳味噌を爆発させているのが気になりますが・・・・(^^;;)。

 なおタイトルが「アダルトチルドレン」となっていますが,いわゆる「アダルトチルドレン」とは,なあんにも関係ないようです。単にゴロが良かったせいではないでしょうか? 書店の皆さま,置き場所を間違えないよ〜に(<間違えるわけがない!(笑))。

98/02/15

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