星野之宣『宗像教授伝奇考』6巻 潮出版社 1999年

 いよいよこのシリーズも,この巻で最終巻のようです。4つのエピソードを収録しています。

「File30 氷の微笑(ほほえみ)」
 東北地方の片田舎に住む老人。35年前に,彼の不思議な経験を聞いた宗像は,ふたたび老人の元を訪れるが…
 シャロン・ストーンの映画ではありません(笑)。一老人の不可思議な経験を元にしながら,「雪女伝説」を素材として,ミステリ・タッチの作品に仕上げています。ファンタジックなエンディングもいいですね。ところで,この作品で出てくるように,人間の記憶が,意識的無意識的に改変されていきながら,「伝説」が形成されていくプロセスというのは興味深いですね。
「File31 桃太郎連説」
 ゲーム・ソフト『桃太郎の冒険』のイベント準備にかり出され,“桃太郎伝説”の故郷と言われる岡山に赴いた宗像は…
 「犬猿の仲」という俗諺を,ここまで思いっきり拡大解釈してしまうと,なんとも楽しいですね(笑)。それにしても「猿蟹合戦」「桃太郎」「花咲爺さん」を合体させた民話って,本当にあるんでしょうか?
「File32 夢と知りせば」
 学生時代,憧れていた年上の女性・高群真智の訃報に接した宗像が,彼女の最後の論文を読んでいると…
 これまでほとんど触れることのなかった宗像教授の青春時代に,小野小町伝説を絡ませた,幻想味にあふれたエピソードです。前にも一度書きましたように,この作者には,ときおり「ラヴ・ロマンス」の佳品が見られますが,この作品もその1編に数えられるでしょう。満開の桜の下でたたずむ小野小町の幻影は,この作者の傑作のひとつ「月夢」かぐや姫のアップ・シーンに匹敵する美しさですね。この巻で一番楽しめました。それにしても高群真智の蔵書の中に,「稗田礼二郎『六福神』というのがあるのは,笑っちゃいますね(笑)。
「File33・34・35 流星剣」
 知り合いの編集者・池嬢から懇願され,中世史学者・竜胆とともに源義経の伝説ルートを追う宗像は…
 シリーズ最終作(だと思います^^;;)。この作者の伝奇大作『ヤマタイカ』では,邪馬台国という作品のモチーフのため,歴史上,中央政権から無視され,抑圧され,差別されてきた沖縄や九州が大きくクローズ・アップされていますが,それとともに,同じような歴史をたどってきた東北地方にもスポット・ライトが当てられています。本エピソードでは,源義経新選組土方歳三といった,中央集権に追われて北へ落ち延びた人物たちを追いながら,東北や北海道が持っていた独自の歴史を浮かび上がらせる仕掛けになっています。ただストーリィ展開としては,いまひとつ盛り上がりに欠け,作者の熱意は伝わるものの,シリーズ最終作としては,ちょっと物足りないところが残ってしまったのが残念でした。それはともかく,池さん,お幸せに(笑)。

99/10/31

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