星野之宣『宗像教授伝奇考』5巻 潮出版社 1999年

 「file.24」から「file.29」まで,計4つのエピソードを収めています。

「file.24〜26 西遊将門伝」
 10世紀,関東で叛乱を起こした平将門。彼の生涯には,『西遊記』との奇妙な一致があり…
 3巻の感想文で,この作者と諸星大二郎―ほぼ同時期に『少年ジャンプ』からメジャア・デビュウしたふたりの異才―の因縁(?)を書きましたが,このサブ・タイトルからもわかりますように,星野の方で諸星をかなり意識しているようです。いうまでもなく,諸星の未完の大作『西遊妖猿伝』を思い起こさざるを得ません。ましてや,このシリーズも『妖猿伝』もともに『コミックトム プラス』に連載されているわけですから・・・(でも,もしかすると編集サイドからの要望かな?)
 さて,それはともかく,平将門『西遊記』というのは,なんとも意外な組み合わせです。もちろん両者をストレートに結びつけるわけではなく,その間に天海僧正を介在させるあたり,この作者の伝奇的想像力には,はかりしれないものを感じます。また作中で描かれる“天海僧正の呪法”を,歴史上のワン・エピソードで終わらせるのではなく,平将門の叛乱―徳川家康の江戸開府―明治天皇の遷都,という西国から東国への中心地の移動という,大きな歴史の流れに結びつけるところも,『ヤマタイカ』を描いた作者らしいところです。ところで,この天海僧正という人物,わたしも前々から気になっているのですが,彼の生涯についてまとまった本とか,ありませんかね?
「file.27 菊理媛(くくりひめ)は何を告げたか」
 イザナギ・イザナミの黄泉国神話。『日本書紀』の一書に出てくる“菊理媛”がイザナギに告げた言葉とは…
 日本神話の中でほんのわずかしか顔を出さないにも関わらず,日本各地で祀られている「菊理媛」は,やはり伝奇的想像力を刺激する神様なのでしょう。とくに黄泉国神話という,人間の「生と死」に関わる根元的な神話のみに出てくる神様だけに,いろいろとおどろおどろしいミステリアスな神格が想像されることもあるからでしょう。組紐に縛られた遺骸が,寝ている尼さんの上に落ちてくるシーンは,とても怖いですね。
「file.28 冬の兎」
 雑誌編集者・池とともに鳥取・白兎海岸を訪れた宗像は,そこで旧家・和邇家の遺習に立ち会う…
 能天気な編集者・池嬢が楽しい,恒例の「十二支シリーズ」,今年は兎です。といえば,やはり「因幡の白兎」です。作中でも触れられてますが,福岡には,海岸の漂着物を集めている方がおられ,その方が書いた本を読んだことがあります。ハングルや中国語,あるいは東南アジアの言葉の書かれた漂着物が玄界灘に流れ着いていることを知ると,人や文化もまた海流に乗って伝わってきても,けしておかしくないなぁという思いを深めます。
 ところで,ゆのひらさん@湯の平便りが,「因幡の白兎」について,むちゃくちゃ面白い解釈をしてますので,よろしければご一読を。
「file.29 水天の都」
 福岡久留米を訪れた宗像は,旧友から河童を題材とした町おこしの話を聞き…
 筑後川の名産(?)が河童であることは知ってましたが,こんなにたくさんいたんですねぇ。そこに「平家の落武者伝説」を絡めたり,また平清盛が組織したという「禿髪(かぶろ)」に河童のイメージを重ね合わせたりするところは,なんとも楽しいですね。そういえば,鹿児島の川内市も河童がトレード・マークになっていたような・・・

98/05/03

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