高橋葉介『夢幻紳士』1・2巻 スコラ漫画文庫 1998年

 「お気に入りのコミック」『夢幻外伝 夜の劇場』にも書きましたが,作者によれば,夢幻魔実也は3人います。今回,文庫化されたのは,3人の中でもっとも活躍期間(=連載期間)が長く,パワフルなふたり目(?),『アニメージュコミック』版の夢幻紳士であります。文庫1・2巻で,全体の1/3弱といったところでしょうか。

 で,今回ひさしぶりに10年以上前のこの作者の作品を見たわけですが,2巻ではかなり影は薄れているものの,1巻のタッチは,まさにデビュウの頃,非常なインパクトをもって受け入れられた「筆線」が色濃く出ていますね。いやぁ,なんともなつかしいです。
 この独特の描線で描き出される,さまざまな幻想的でグロテスク,そしてときとして強烈にアイロニカルな,この作者のショート・ストーリィには,一時期,心底まいってしまいました。「仮面少年」「腹話術」「触覚」「墓掘りサム」「荒野」など,それまで読んでいたマンガとはまったく異なるテイストをもっていました。いま思えば,小説でいうところの「奇妙な味」に近い作風なのかもしれません。

 それと今回読み返してみて驚いたことは,作者に対してはむちゃくちゃ失礼なのですが,「はじめの頃は,けっこうストーリィ,考えてるやん」ということです(笑)。このふたり目の夢幻魔実也,基調はスラプスティクスなのですが,後半になると,スラプスティクスを飛び越して,ほとんどナンセンス・コメディに近いノリになってきます。そこらへんの印象がやたらと強いのですが,この1・2巻におさめられているエピソードを読むと,スラプスティクスとはいえ,それなりにきちんとストーリィをつくっています。
 たとえば1巻所収の「妖虫博士と蝶の谷」「夜歩く」などは,怪奇浪漫的な色合いが濃厚で,上に挙げたような初期作品に近い雰囲気をもっています(とくに「妖虫博士」の方に出てくる巨大カマキリは,「筆線」で描かれているせいもあって,不気味でいいです)。また2巻所収の「ジャフディの眼」「ツェッペリンを乗っ取れ!!」「偉大なる血」などは,いずれもナチス・ドイツ絡みのストーリィで,とくに「偉大なる血」などは,いろいろと見せ場を作ってくれていて楽しめます(おそらく元ネタはアイラ・レヴィンの『ブラジルから来た少年』あたりでしょう)。

 もちろん,スラプスティクスとしてのおもしろさが,この作品の「売り」でして,とくに魔実也の父親夢幻狂四郎が登場してからは,一気に加速します(笑)。初登場の「密林の夢幻紳士」では,「時間を超える井戸」を使って世界征服を企てるわ,「上海の夢幻紳士」では,イギリス・ドイツ・フランス各国の諜報部から狙われるわ(自業自得ともいいますが),「紐育(ニューヨーク)の夢幻紳士」では,ギャング相手に一騒動巻き起こすわ,と,世界各地でトラブルを引き起こします(でも「紐育」のお父さんは,ちょっとかっこいいです)。
 魔実也は,狂四郎にさんざんっぱら引きずり回されて,いろいろと文句を垂れますが,「いくぞバカ息子!!」「つまづくなよクソ親父!!」という息のあった(?)ところを見ると,「やっぱり,親子やなぁ」と思うのは,わたしだけでしょうか?(笑)。

 ところで,魔実也は「魚座のO型」ということですが,「いちばん,わけのわからない性格だそうです」(笑)。これを見られた方で,魚座のO型の方,いかがなものでしょうか? メール,お待ちしております(笑)。

98/08/25

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