高橋葉介『夢幻紳士 マンガ少年版』朝日ソノラマ 1998年

 まるで「スコラ漫画文庫版」対抗するかのように(笑)文庫化された「マンガ少年版」夢幻魔美也であります。
 「ヨウスケの奇妙な世界」と題された本文庫シリーズは,このあと『夢幻紳士 怪奇編』(全2巻),『夢幻外伝』(全3巻),『怪談 KWAIDAN』と続くようです(「ヨウスケの・・・」というのは,たしか,この作者のデビュウ直後のショート・ストーリィ群に冠された名称でしたね)。

 さて「スコラマンガ文庫版(旧「アニメージュコミック」版)」の感想文に,このシリーズは,スラプスティクスが「売り」と書きましたが,この文庫におさめられた「夢幻紳士」は,たしかにコメディ色があるものの,独特の「筆線」とともに,かなり怪奇色が強いように思います。
 たとえば「案山子亭」は,旅の途中の魔美也が泊まった寂れた宿屋「案山子亭」。魔美也以前に12人の宿泊者がいるはずなのに,「日付は泊まった日だけで,一人も出立してなかった」という。その晩,魔美也はなにものかに襲われ・・・,というエピソードです。ところどころ「小ギャグ」がはいるものの,「クトゥルフ神話」を元ネタ(?)にした,なかなかの「古典的怪談」といった感じです(あの『ネクロノミコン』が,名前だけ登場します。もっとも魔美也に「こいつはまゆつばものだな」と一蹴されますが(笑))。
 また「亜理子(アリス)の館」は,娘を成長させたくないマッド・サイエンティストを襲う悲劇を描いています。館の中を探索する魔美也の背後に,巨大な娘の腕が伸びてくるシーン,そして開けたドア一杯に広がる娘の顔,など,映像的な不気味さに満ちています。
 ただじつをいうと,この2作品は,正確に言うと「マンガ少年版 夢幻紳士」ではなく,その後に単独で発表されたもので,厳密な意味での「マンガ少年版」はもっとコメディ色が強いです。それも猟奇的なネタをあつかったブラック・コメディといった感じです(とくに「顔泥棒」はかなりグロテスクで,ブラックです)。その中にあって,「夢幻少女」は,幻想的でせつない,お気に入りのエピソードです。魔美也の夢の中に現れる少女,彼女は魔美也に「たすけて」と訴えるのだが・・・というお話。もしかすると魔美也は,その夢の少女に恋をしていたのかもしれません・・・。

 改めて「マンガ少年版」を読んでみると,怪奇・猟奇&コメディといった色合いが強く,前者が「怪奇編」「外伝」へと繋がっていき,後者が「アニメージュコミック版」へと展開していくのではないかという風に感じられます。つまり,夢幻魔美也は3人いるのではなく,じつは彼は「多重人格」だったのだ,と・・・(大嘘です^^;;;)。

 このほかこの短編集には「アン」「クレイジー・アン」「骨」の,「夢幻紳士」ではない3編が収録されています。前二者は,ひとつの体の中にアンとギルという双子の兄妹がいるというスプラッタ・ホラーです。ストーリィよりも「絵」を楽しむ(?)作品ですね。
 「骨」は,スランプに陥り,海辺の別荘にこもった女性作家が,ある日,海辺に落ちていた骨を拾う,その後,毎日のように骨が落ちていて,それは子ども一体分の量になり,そして・・・というミステリアスなホラーです。主人公のキャラクタのせいもあるのでしょうが,翻訳物を思わせる雰囲気で,以前どこかで読んでけっこう気に入っていた作品です。高橋作品の中では,ちょっと異色なテイストをもっているように思います。

98/08/28

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