浦沢直樹『MONSTER』Chapter12 小学館 1999年

 「第3回 手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞作品」であります。まぁ,それはそれでめでたいことですし,好きな作品がこういう形で評価されるのは,ファンとしてもうれしいことではありますが,正直,どうも腑に落ちないところもないではありません。どうもマンガでは,今回の場合も含めて,連載中の作品に賞を与える,というパターンが多いように思え,その点,ちょっと首を傾げてしまいます。
 マンガに限らず,物語というのは,完結してはじめてその評価が可能になるのではないでしょうか? こういったストーリィマンガの場合は,とくにそうでしょう。絶好調で連載していた作品が,尻切れトンボで終わってしまうことも多々ありますし,逆に人気作品として編集部がだらだらと連載を長期化させ,メタメタになってしまう作品もしばしば目にします。
 もちろん本作品が,その轍を踏むかどうかは,それこそ「終わってみなけりゃわからない」ことであり,わからないにも関わらず,「各界から,絶賛の嵐」などといったあおり文句とともに,賞を与えてしまうのは,いかがなものかと思うわけです。たしかにマンガの場合,書き下ろし作品がきわめて少なく,連載という形での発表が圧倒的に多いという事情が関係してくるとは思うのですが,穿った見方をするならば,マンガは基本的に消耗品であり,終わった段階でそれはもうかえりみられなくなる,という認識が背後にあることから,連載途中で賞を与えてしまう,という風にも考えられなくもありません。しかしそれは,「物語」としてのマンガを蔑ろにしたやり方ではないかとも思えてしまうのです。
 もしマンガをひとつの物語表現として見なすならば,終わった作品を単なる過去のものとしてしまうのではなく,完結した段階できちんと評価することの方が,プライベートな感想文ならともかく,少なくとも「賞を与える」というパブリックな評価としては,より妥当な姿勢ではないでしょうか?(蛇足ながら付け加えれば,本作品が受賞に値しない,というわけではありませんので・・・)

 さて能書きはともかく,本書前半2/3は,「プラハ編」です。グリマーとともに,ヨハンの過去を追うテンマの姿を描きつつ,ふたたび「あの人物」が顔を出します。そう,テンマを執拗に追うドイツ連邦捜査局のルンゲ警部であります。彼は,その卓抜した記憶力と推理力で,独自にヨハンに迫ります。そして訪れた「バラ屋敷」「511キンダーハイム」とヨハンをめぐる謎の人物フランツ・ボナパルタ―彼はまた『なまえのないかいぶつ』の作者でもあります―が住んでいたという「バラ屋敷」。その封じられた部屋に隠された秘密とは・・・,という展開です。謎に向けて,複数のアプローチが並行して描かれ,核心へと合流していくというサスペンスの常道的展開と言えましょう。とくにこれまでで出てきたキャラクタで,テンマたちとはまったく異なる道筋で真相にたどり着けそうな人物といえば,性格的に問題あるとはいえ(笑),このルンゲをおいて他にはいないのではないでしょうか?
 一方,グリマーと別れ,やはり「バラ屋敷」に赴こうとするテンマ。彼とルンゲとの再会はなにをもたらすのか? と,盛り上げておいて,なんと物語は急展開!!(@o@)

 テンマはついに逮捕されてしまいます!

 ルンゲの再登場によって,ヨハンとニナの過去が断片的ながら浮上し,ストーリィが新たな局面を迎えたところで,一気にクライマックスへと向かうんじゃないかと思わせといて,まだまだゴールを見せてくれません。いやぁ,なんとも読者をじらすことの上手な作家さんですなぁ・・・
 そしてテンマの逮捕を知って,彼の収容先ハイデルベルクへ向かうDr.ライヒワインと,かつての婚約者エヴァChapter6で,ヨハンの殺人を目撃した彼女は,テンマの容疑をはらすことができます。しかし彼に恨みをもつエヴァが,普通に証言するとは思えません。テンマになんらかの取引を―よりを戻すという取引を―持ちかけるのではないかと思われます。
 謎の核心に目前にまで迫りながらも,囚われの身となったテンマ。果たして彼はヨハンに追いつけるのか?

98/07/10

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