石川賢『虚無戦史MIROKU』全5巻 徳間書店 1988〜1990年

 頃は徳川治世の初頭,“龍の艦(ふね)”を発動させ,日本を,世界を滅亡させんとする真田幸村と真田十勇士,それを阻止しようとする無幻美勒ら九龍一族,彼らの間では,人知れず,この世のものとは思えぬ暗闘が続けられていた。そしてその戦いは,宇宙の運命を賭けた壮大なる戦いに関わっていた・・・。

 半村良『妖星伝』と,山田風太郎「忍法シリーズ」を足したようなストーリィに,お得意の,ドロドロ,グチャグチャ,ヌタヌタのモンスタたちのバトル・シーンを配した,この作者の代表作のひとつです。以前持っていたのですが,いつまにか手放してしまい,長いこと探していた作品で,ようやく古本屋で手に入れることができました(ほくほく)。

 『魔獣戦線』の感想文でも書きましたが,この作者の作品の魅力のひとつは,そのモンスタたちのおぞましさ,グロテスクさにあるのではないかと思います。そんなモンスタたちが異形の力と技を尽くして闘う様を描き出す,迫力あるタッチにあるのだと思います。この作品も,そんな魅力を存分に見せてくれます(『魔獣戦線』より発表が10年あと,ということもあって,絵柄もソフィストケートされた感があります)。
 で,今回のモンスタたちは真田幸村真田十勇士立川文庫以来,真田十勇士といえば,悪辣で陰険なタヌキ親父徳川家康(ああ,名古屋の人,ごめんなさい)に立ち向かうヒーローの役回りですが,この作品では地球を滅ぼそうとする悪役です(もっとも物語の後半になると“単なる悪役”でないことが明らかにされますが・・・)。
 とにかく猿飛佐助霧隠才蔵三好清海入道も,忍法などという生やさしいものではなく,妖術というか超能力というか,奇怪至極,荒唐無稽,言語道断の荒技を使いまくります。佐助は怪獣やら化け物やらを虚空から出現させますし,才蔵の身体は名字通り“霧”のようにあらゆる武器を透過させてしまい,筧井十蔵は重力は操ります。
 かたや対する九龍一族も,触るだけで相手を凍らせる夜叉姫やら,影が異次元につながる「泣きのグズ虫」やら,全身これ火薬だらけの十方飛丸やら,と負けていません。主人公の美勒も空間を飛ばす剣法を駆使します(じつは主人公の“技”が一番ジミだったりします(笑))。
 そんな人間離れした(すでに人間じゃない?)連中が組んずほぐれつのバトルを展開するわけですから,もうワクワクドキドキ,愉しいったらありゃしない v(^o^)v

 ストーリィの方も,真田vs九龍の戦いの過程で明らかにされる“龍の艦”の正体,戦いの真の意味,そして「人類とは何者なのか?」という壮大な答,という,これまた大風呂敷を広げた楽しいものです。その展開も,美勒と夜叉姫のラヴロマンス(?)や(これがまた伏線になっていたりします),霧隠才蔵の裏切りに対する十勇士と九龍一族との共闘,そして“神の降臨”などなど,けっして一本調子でないところがグッドですね。
 エンディングは,以前読んだときは,ちょっと「?」といったところがありましたが,今回読んで,「これから本当の『虚無戦史』がはじまるのだな」という感じで,これはこれで巧い終わり方なのだろうと思いました。

 う〜む,石川作品はやっぱりおもしろい!

98/04/16

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