石川賢『魔獣戦線』全3巻 双葉社 1997年

 実の父親と12人の科学者により,母親を殺され,みずからも生体実験の犠牲となった来留間慎一。恐るべき実験のため,野獣と合体し,魔獣として蘇った慎一は,彼らに復讐を誓い,闘いを挑む。だが科学者たちの背後には,旧人類一掃を謀る「神」が存在し・・・。

 久しぶりに『魔獣戦線』の復刊です。うれしいな,うれしいな,うれしいなったらうれしいなっと(ううむ,ほとんど錯乱状態(^^;)。巻末の永井豪石川賢との対談を読んだら,掲載誌は『少年アクション』,1975年。うわあああ,20年以上前の作品ですよ(これを雑誌でリアルタイムで読んでいたわたしって・・・)。
 たしか10年くらい前に一度復刊されて買ったんですが,どこかに行ってしまって(売ったのかな? 記憶あやふや),また読みたくなって古本屋で探してはいたんですが,影も形もない(死語)。だからこの復刊はほんとうにうれしいです。それもいま流行りの文庫版ではなく,B5判のところもなんとも心憎いですね。「完全保存版」というふれ込みで,多少加筆されていますが,文庫版『デビルマン』のように,ひどくはありません。むしろところによっては,加筆によってよくなっています。

 石川作品にはさまざまなモンスタたちが登場します。人間と野獣,人間と機械,本来異質なもの同士が結びつき,混じり合い,溶け合った異形のものたちです。そのドロドログチャグチャの(笑)グロテスクな姿は,壮絶なバトルシーンと相まって,すさまじいまでの迫力があります。なにしろ主人公慎一にしてから,体内にライオン・熊・鷹がおり,敵する連中も,鳥やら猿やら蜘蛛やらとの合体生物ばかり。一番気色悪いのが,12使徒のひとりシャフト博士「30人の息子たち」。不思議なもので,人間と動物の合体よりも,人間同士の合体のほうが,はるかにおぞましい感じがしますね(「合体」って,『釣りバカ日誌』の「合体」じゃありませんよ。念のため(笑))。
 そんな連中が,下手な武器やら機械やらをほとんど使わず,まさに血みどろ血まみれの肉弾戦を繰り広げるわけですから,その迫力たるや,石川作品の中でもピカイチ(これも死語)です。ここらへんが,妙にソフィストケートされた永井豪のモンスタたちとの最大の違いではないでしょうか(ただし「ジンメン」はのぞきます。あれはグロテスクの極みです)。

 ところで巻末の永井・石川対談でも触れていますように,この作品は『デビルマン』をかなり意識して描かれたようで,「神vs魔」という壮大な設定の作品です。しかし『デビルマン』が,そのハードな展開の終焉として,静寂に満ちた哀しいまでの美しいラストシーンを持ってきたのに対し,こちらはかなりショッキングなエンディングです(未読の方のために書きませんが)。初読のとき,子ども心に「げげっ,なんちゅう終わり方や」と思ったものです。それでも「神よ・・・,きさまがマリアの体と血が欲しければとりにこい」という,慎一の最後のセリフは,しばしば見られる,読者に「ほんとうの結末」を想像させるラストシーンとしては,なかなか秀逸なものだと思います。

 それにしても巻末の永井・石川対談。石川賢の本なのに,永井豪が喋りすぎなんじゃないですかね(笑)。

 ああ,また石川賢のマンガが読みたくなってきました。『5000光年の虎』『魔界転生』…わたしは,短編ながら「桃太郎地獄変」が好きです。

97/07/15

go back to "Comic's Room"