あさりよしとお『まんがサイエンス I〜VIII』学研 1991〜2002年

 1989年から,学研の学習誌『5年の科学』『6年の科学』に掲載されている,いわゆる「学習マンガ」です。

 わたしは,子どもの頃,「学習マンガ」というのが,あまり好きではありませんでした。端的に言って,おもしろくなかったからです。今,思い返してみると,その頃,マンガといえば,永井豪『ハレンチ学園』や,ジョージ秋山『銭ゲバ』『アシュラ』といったアナーキィな作品が発表され,PTAをはじめとする教育関係者による,すさまじいまでの「マンガ・バッシング」が繰り広げられていました(NHKのニュースで取り上げられ,しかめっ面のアナウンサの背後に『ハレンチ学園』のワン・シーンが映されているところが記憶に残っています(笑))。おそらくその反動でか,「学習マンガ」には,ことさらに「お行儀の良さ」が求められたのでしょう。上記のような作品を嬉々として読んでいた子どもであったわたしが,そんな「お行儀の良い」マンガを楽しめるはずがありません(まぁ,今読み返してみれば,それはそれで,別の味わいがあるのかもしれませんが)。
 そんなわけで,この作者の作品は,掲示板の書き込みをきっかけに『るくるく』『宇宙家族カールビンソン』などを読み始めたのですが,「学習マンガ」である本作品は,書店で見かけていたものの,ちょっと手をつけかねていたのです。しかし「やはり,食わず嫌いはいかんだろう」ということで,まずは1巻を買ってみたのですが,これがおもしろい! で,気がつくと最新の8巻までまとめ買いしてしまいました(笑)

 さて本シリーズのおもしろさは2点あると思います。ひとつは,この作者のギャグ・センス。さすがに『るくるく』や『カールビンソン』のようなブラック・ギャグ,マニアック・ギャグは影を潜めているものの(まったくないわけではありませんが),ところどころに小ネタギャグを挿入し,この手の作品で陥りがちな「解説調」を巧みに回避しています。
 個人的に好きなのが,「VI 力学の悪戯」に出てくる解説者の面々。「悪魔を滅ぼす銀の女神」「夢の女王」など,作中キャラから「非科学的!」と突っ込まれるのには笑ってしまいます。きわめつけは,ベストセラーにもなった『ゾウの時間ネズミの時間』を元ネタにした「どちらが長生き!? ゾウとネズミ」に出てくる「猫の幽霊」。「猫は9つの魂を持ってます」とか「猫は40年以上生きるとネコマタになる」とか「非科学モード」が全開(笑) 『メアリー・ポピンズ』をパロディしたエンディングもいいですね。「III 吾輩はロボットである」に登場するロボット−鉄腕ア○ムドラ○もん鉄人○号をミックスさせたような造形が苦笑を誘います(おなかのポケットから「どこでもドア」らしきものを取り出そうとするのを,「そこまでやったら,まずいって…」と突っ込むのも笑えます)。

 もうひとつは,いうまでもなく内容としてのおもしろさ。わたしのお気に入りは「II ロケットの作り方おしえます」「IV いとしのMr.ブルー」です。
 「ロケット…」は,ロケットの原理と開発の歴史を,すこぶるコンパクトにまとめたすぐれもので,そちら方面にとんと疎いわたしにも,十分に理解できます(<要するに,おつむが小学5年生並?(笑))。最初に出てくる人工衛星の原理を,ボール投げを例としながら説明しているところは,思わず「ふむふむ」と納得しちゃいましたし,アメリカのロケットとソ連のロケットとの違いは,こういうところにあったんだ,と感心しました。また実際にはロケットを飛ばすことはなかったものの,現在のロケットのアイディアをほとんど作り上げたというツィオルコフスキー博士という人物にも関心が湧きますし,また彼がジュール・ヴェルヌのSF作品からインスパイアされてロケット研究を手がけ始めたというとこも興味深いですね。
 もうひとつの「Mr.ブルー」は,環境問題を扱った内容。作品のノリこそ,この作者らしい軽快なものですが,テーマそのものはヘヴィなものです。それも,オゾン・ホール,地球温暖化,廃棄物処理,森林破壊,海洋汚染など,個々のテーマを丁寧に描き出すとともに,それらが連関した問題なのだと導いていくところは圧巻です。わたしの子どもの頃にも公害問題が出ていましたが,今のわたしたちが直面するのは,より深刻な事態なのでしょう。それを子どもたちにきっちりと提示している点で評価できる作品といえましょう。
 「科学マンガ」とは,単に「科学バンザイ!」を唱道するものではなく,科学が産みだしたもの,そこから生じる問題までも描いてこそ「科学マンガ」たりえるのだと,つくづく思いました。

 それにしても,今の子どもって,こんなおもしろい「学習マンガ」を読めるなんて,幸せだなぁ…

03/07/11

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